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 (ひょう)がただただ焦る中、倉庫前に到着した(ジォウ)らは、すぐさま敵を制圧すべく手順を確認し合う。その間、ファミリーの若い衆らは応援が来たことを知らせる為に倉庫周囲で壁に銃弾を撃ち込んだり、車をふかし爆音を立てては威嚇と撹乱の援護射撃に出てくれていた。 「(ジォウ)さんと(リー)さんは(ひょう)君の救出に専念してくれ! 連中は俺たちが引き受ける!」  紫月(しづき)はそう言うと、持参してきた角帯を腰元に結び付けては長刃の日本刀を携えた。 「(りょう)! 俺が斬り込むから援護を頼む」  先導して敵の位置を知らせるから、彼らの意識をそらせて欲しいと言った。 「敵の位置と言ってもこの暗がりだ――先導は俺が行こう」  鐘崎(かねさき)紫月(しづき)に万一のことがあってはならないと、まずは自分が盾になろうと主張。だが、紫月(しづき)はニヤっと余裕の笑みを浮かべてみせた。 「いや、暗がりだからこそだ。俺はめちゃくちゃ視力がいいからさ、斬り込み隊長は得意分野ってことさ。敵の位置を伝えるからほんの一瞬ヤツらの意識をそらしてくれれば助かる。ヤツらは拳銃や短刀を持っている。そいつを撃ち落とせとまでは言わねえが、意識がそれれば隙をついて峰打ちで討ち取れる」  一番簡単なのは敵を始末してしまうことだが、例え悪人相手といえども他所の国――しかも(ジォウ)一族の本拠地たるこの香港で、大量殺戮はさすがにまずいべと言って笑む。ここは一手間掛けても殺さずに討ち取るべきだろうというのだ。 「――分かった。お前さんの言う通りだ。なるべくヤツらの手にしている獲物を狙う。紫月(しづき)――くれぐれも気をつけて行け!」 「任せろ! 敵の位置はヤツらに気付かれねえように日本語で伝える!」  持参した長刃の日本刀を携えて倉庫内へと踏み込んだ。驚いたのはその瞬間に紫月(しづき)が自らの気配を煙のように消したことだ。薄暗がりの倉庫内には敵が複数散らばって家探ししている雰囲気が蔓延していたが、どこに誰が何人いるのかというのはさすがの鐘崎(かねさき)でも全容は把握できずにいた。そんな彼らに侵入者の気配をまったく感じさせないままで紫月(しづき)は足音さえ立てずに突き進んでいく。まさに煙の如く正体を消しながらも、迷いのない俊敏な足取りで先導する彼の背中を目で追いながら、鐘崎(かねさき)源次郎(げんじろう)が援護するべく後に続く。(ジォウ)(リー)も視界に入った敵の急所を一撃の体術で破りながら、主たる戦闘は鐘崎(かねさき)らに任せて(ひょう)の行方を捜した。 「(りょう)! 右、十四時の方向、五メートル先に二人! 左、九時と十時、七メートル先に三人! 正面は俺が狩る!」  先頭を行く紫月(しづき)からの合図で鐘崎(かねさき)源次郎(げんじろう)が敵の手にする武器を目掛けて発砲。次々に撃ち落としていった。 「次! 左、十時の方向、斜め上から二人来るぞ! 右、十五時水平方向に三人! 距離十メートル先だ!」  暗闇の中、割れた天窓から差し込むわずかな街の灯りだけを頼りに、それでも紫月(しづき)は的確にいち早く敵の所在を見極めては、真正面から向かって来る者には有無を言わせる暇もなく体術で意識を刈り取っていく。その指示を頼りに確実に一発ずつの発砲で敵の所持する拳銃や短刀を撃ち落としていく鐘崎(かねさき)らの腕前も、寸分の狂いもなく見事といえる。  それらを数度繰り返し、左右からの銃撃の心配がなくなったところで、紫月(しづき)は長刃を逆手に持ち変えては一気に峰打ちで畳んでいった。  踏み込んでからわずかものの十分足らずで敵を制圧。すっかり静かになった廃倉庫内に若い衆らの乗って来た車のライトが照らし出された。

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