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「――そうか」
周 は半ば驚きつつも、ふうと小さな溜め息をつきながら言った。
「だが、結果として冰 は無事だった。売られた先がお前さんのような人間だったのは不幸中の幸いと言えるだろう。それに――お前さんの容態を冰 がえらく気に掛けている。命で償わせたりすれば俺が恨まれそうだな」
周 はフッと薄い笑みを漏らすと、ロナルドにとっては信じられないような温情を口にした。
「あいつを売り買いした罪だが――あいつの命を救ってくれたことで白紙 にする。怪我が治ったら今度こそ胸を張って生きればいい」
「……! あの……龍首 ……。こんな手前をお赦しくださるってんです……かい?」
ほとほと信じられないといったふうに唖然とした表情で見上げてくる。
「そういうこった。とにかくは養生に専念するといい。それから――」
周 は曹来 に目配せすると、「連れて来てくれ」と言った。
しばしの後、冰 がひょっこりと病室の扉を開けて顔を出した。
「おじさ……いえ、ロンさん!」
ベッドの上で半身を起こしている様子に心から安堵した表情で駆け寄って来る。
「ああ、良かったです! 気が付かれたんですね。お怪我の具合は如何ですか?」
心底心配そうに容態を尋ねると同時に、庇ってもらったことへの礼と詫びを口にした。
「僕のせいでロンさんにお怪我を遭わせてしまって本当にごめんなさい! 助けていただいてありがとうございました」
元はといえば危ない目に巻き込んだのは自分たちの方だというのに、こんなふうに謝られてはあべこべだ。今し方の周 からの温情といい、この青年からの気遣いといい、ロナルドは感激やら後悔やらが入り混じってか、自然とあふれてしまう涙を抑えることができなかった。
「いや――俺の方こそアンタを巻き込んじまってすまなかった。アンタを売り飛ばそうとしてたことを……心から悔いている。本当に申し訳ない!」
ボロボロと頰を濡らしながら鼻をすする。
「そんな! ロンさんたちがやさしくていい人だったから僕はこうして無事だったんです」
本来だったらすぐにも闇市に落とされて、今頃は臓器を抜かれて既にあの世だったかも知れない。そうせずにカジノで遊んでみたいという望みを聞いてくれたのは事実だ。ほんの数日という短い間だったが、一緒にカジノ巡りをして、美味しい物も食べさせてくれた。カジノに出入りする為の新しい服も買ってくれた。それらを選びに街で買い物をしたり、皆で一緒に食事をしたりした時間は決して恐怖ではなく、そこには笑顔もあった。楽しい思いも確かに存在したのだと思い返す。
「ロンさん、いろいろとありがとうございました。香港に連れて来られた時は驚きましたが、出会えたのがロンさんたちで良かったです」
冰 はペコリと頭を下げながらロナルドの手を握った。
「お怪我が早く良くなるよう願ってます」
温かい掌の感触と、ほんわりとしたやさしい笑顔。それらを目の前に、ロナルドは再び涙した。
ありがとう。ありがとう――! そして、ごめんな。
今度こそ、どこでアンタに会っても恥ずかしくない人生を歩めるよう精一杯努力する。約束するよ――!
そんな思いを胸に、ロナルドは止め処なくあふれてくる涙を拭ったのだった。
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