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66 制裁
こうして一件落着の後、こと周 にとっては片付けなければならない仕事がひとつ残っていた。冰 に理不尽な仕打ちを働いた元凶・道ノ瀬由羅 についての制裁である。
周 らが香港に行っている間、レイが上手いこと事務所に足留めしておいてくれたので、ケリをつけるべく周 自らが動いたのだ。もちろん、それは表のモデル・イェンとしての顔ではなく、龍首頭領 次男坊・周焔 としての対峙であった。
ここは周 が所持する都心のビルの一室だ。
全面がコンクリートの剥き出し壁で覆われた無機質な空間に窓はない。巨大ビルの深い位置にある地下室だ。真っ暗闇の中にポツンと置かれた粗末な椅子が一脚、少し離れた対面には座り心地の良さそうな大きなソファ――。それらを隔てるように薄い布張りの衝立が置かれている。互いに腰掛ければシルエットは分かるものの顔や表情まではよく見えない仕様となっている。
当然だが粗末な椅子の方には道ノ瀬由羅 が、対面のソファには周 が堂々たる姿で深く身体を預けていた。由羅 の左右にはサングラスで目元を隠した李 と劉 が見張るように立っており、一目で危ない雰囲気を感じさせるものだった。
「だ、誰だよアンタら……。俺をどうしようってんだよ……」
視線を泳がせ、ビクビクと身を縮めている。別段縛ったり暴力を加えたりはしていないというのに、空間の雰囲気だけで由羅 を強張らせていた。
「道ノ瀬由羅 だな」
怒鳴るでもなく脅すわけでもなく、ただ静かに周 が問い掛けるも、たったそのひと言だけで由羅 には相当なプレッシャーがのし掛かったようだった。当然か、それが同じ事務所のトップモデルの声だともまったく気付いていないようだ。もともと由羅 のようなデビューすらしていない研究生モデルにとって、トップモデルの周 と直に話す機会など無いわけだが、それでもインタビュー動画などで声を聞き慣れている者はいるだろう。だが、今の周 はモデルのイェンではない。当然纏う圧も声音も表で見せるものとはまるで違うわけだ。薄く透ける衝立に遮られていてもビリビリと感じる圧は、ただ座ってそこにいるというだけにもかかわらず恐怖を通り越して身の凍る思いを突き付けてくる。
「雪吹冰 というモデル仲間を拉致させて売り飛ばしたのは事実だな?」
それ以上詳しいことを聞かなくとも、由羅 にはなぜ自分がこのような場所に連れてこられたのかが理解できたようだった。
「……は? な、何の話?」
それでも素直に認めるわけにはいかない。認めれば、今左右にいる男二人にすぐにも何かされそうな雰囲気を感じたからだ。
「しらばっくれたところで良いことはねえぞ。素直に吐けばそれなりの待遇を考えてやる」
「は……? 何……言ってんのアンタ……」
「もう一度訊く。同じモデル事務所の雪吹冰 を拉致させたのはお前だな?」
「……そ……れが何? アンタらとどういう関係があるってんだよ」
「認めたな?」
周 はじろりと険しい視線で衝立越しの由羅 を射抜いた。
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