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「い、意外と話が分かる人で良かった。た、逮捕するならアイツらにしてよ。何なら雇ったヤツらの情報を教えるからさ」  笑みまで浮かべて安堵する。ここまでの馬鹿だと相手をするのも嫌気が差しそうだ。(ジォウ)は薄く笑うと最後のひと言を口にした。 「では決まりだ。お前にはお前が売り飛ばした雪吹冰(ふぶき ひょう)が辿るはずだった方の人生を与えてやろう。この後すぐにお前を香港に連れて行く。そのまま臓器を抜いて金に換え、お前はバラされて放置される。死体を野犬に喰われようがゴミとして蹴り飛ばされようが、あるいは虫が死肉を分解してくれるかも知れんが、その辺りは我々の知ったところではない。言っておくが臓器を抜くにも麻酔なんざ上等なモンは使わんぞ。生身のまま肉を切り刻んで内臓を引っこ抜く」  まあ――その腐った根性の持ち主のことだ。内臓すら使い物になるかは分からんがなと言われて、由羅(ゆら)は凍りついた。 「な、何……言って……。何で俺がそんな目に遭わされなきゃなんねってんだよ! じょ、冗談じゃねえよッ!」  叫んだ由羅(ゆら)の両脇からがっしりとその肩を押さえつけながら、今度は(リー)が言った。 「おやおや、それも嫌だと言うのですか? でしたらやはり刑務所行きの方がよろしいか?」  その方がお望みならばそれでも構いませんよと言って笑む。 「ですが――あまりお勧めできない境遇の刑務所ですよ。囚人は屈強な凶悪犯罪者揃い。そんな男たちの寝泊まりしている大部屋であなたはいったいどこまで耐えられるでしょうね」  想像するだに恐ろしいことをさらり爽やかな笑顔で言う。怒鳴られるよりも脅されるよりも恐ろしいのだということを実感した時には既に遅かった。 「ああ、そうです。言い忘れていましたが、あなたのお父上はご子息の不始末の責任を取らされてご辞職なされたそうですよ。財閥だけに周囲からの風当たりも容赦無いようですね。お父上がこれまでの地位に返り咲くことは難しいでしょう」 「お、親父が……? ど……して」 「あなた、例え刑務所に入れられたとしても、そこでの待遇はお父上の力でどうにでもなる――今さっきそう考えたでしょう? あなたの表情を見ていればそれくらい分かりますよ。ですから教えて差し上げたまでです。これも我々の親切心と受け取っていただきたい」 「……親切って……アンタらいったい……」  どこの誰だと訊きたくも、そのひと言を発したが最期――さすがの馬鹿にも理解できたようだ。 「ああ、それから――老婆心ながらひと言、苦言を失礼しますよ。先程からあなたの言動をうかがっていましたが、まずは言葉遣いからして褒められたものではありませんね。我々は気にしませんが、これからあなたが送られる刑務所のご先人相手にはもう少し言動を改めた方がよろしいかと存じますよ」 「は……? 言動って」 「そう、それです。他人に物を訊かれた際に『は?』という返答は如何なものかと思いますよ。受け取り方によっては小馬鹿にされたと感じる方もいらっしゃるでしょうね。節介ついでに申し上げるが、くれぐれも刑務所のご先人方相手にそういった態度はお控えになる方が身の為かと存じます」 「……や、あの……」  この連中には何をどう言い繕ったところで通用しない。由羅(ゆら)は放心したようにガックリとうなだれたまま、叫ぶことも泣くこともできずにその場に崩れ落ちた。  因果応報。  自身の醜いやっかみや嫉妬からショーの衣装に泥を塗って陥れようとしたことや、石をぶつけて罵倒を繰り返したこと、挙句は身の丈に合わない裏の世界の人間を金で雇い、目の上のたんこぶを始末させようとしたこと。これまで自身が手を染めてきたことの重さに後悔したとすれば、まだ救いようがあろうか。それとも反省すらせずにあくまでも他人や世間のせいだと恨み節を貫く気概があるのか。いずれにせよ、彼がこの先どうなろうとそれは(ジォウ)らの知るところではない。  かくして(ひょう)への嫌がらせから始まった拉致事件は静かに幕を下ろしたのだった。

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