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69 お風呂にしますか? ご飯にしますか?

 由羅(ゆら)への処遇を終えて周(ジォウ)が部屋に帰ると、冰(ひょう)が夕飯の支度の最中だった。 「焔(イェン)さん! お帰りなさい。ご飯もうちょっとで出来ますよー」  しかも風呂まですぐ入れるように湯を張ってあるという。『先にお風呂にされますか?』と聞かれて、周(ジォウ)は思わず目を細めてしまった。 「冰(ひょう)。お前さんだって疲れているだろうに。メシに風呂まで沸かしてもらってすまんな」 「いいえ、とんでもありません! 焔(イェン)さんこそ僕のせいで香港にまで助けにいらしてくださったんです。せめて僕にできることくらいさせて欲しいのです」 「ん、そうか。ありがとうな」  周(ジォウ)はそう言いながら、キッチンの鍋に向かって煮え具合を確かめている後ろ姿にそっと寄り添うように立った。そのままクイと鍋を覗き込む。 「今日は何だ? この匂いは煮物か?」 「はい! 金目鯛の煮付けです。さっき鐘崎(かねさき)さんと紫月(しづき)さんが付き合ってくださってスーパーに行ってきたんです。僕のことで店長さんにもご迷惑を掛けてしまったのでご挨拶をと思いまして」  そういえば店長も由羅(ゆら)の雇った二人組に脅されて、言うことを聞かないと家族に危害を加えるなどと言われたわけだ。冰(ひょう)としては帰国後すぐにもその謝罪に行きたかったらしい。  まあ、本来ならば脅されたとはいえ、結果的に冰(ひょう)を売ったことになる店長に対して、恨むどころか巻き添えで嫌な思いをさせてしまい申し訳なかったと思うのが冰(ひょう)の気持ちのようだ。周(ジォウ)にとってはそんなやさしくあたたかい性質が何ともいえずに愛しく感じられてならないのだった。  店長とて逆に恐縮していたそうだが、その際、水揚げしたばかりの良い金目鯛があったというので今夜は煮付けにすることに決めたのだそうだ。 「鐘崎(かねさき)さんと紫月(しづき)さんにもお世話になりっ放しなので夕飯をご一緒にとお誘いしたんですが、今日は僕と同じく紫月(しづき)さんが金目鯛を煮るとおっしゃって」  紫月(しづき)らにしてみても、事件がひと段落した直後に四人分の食事を作らせるのも忍びないというところだったのだろう。今日くらいは周(ジォウ)と二人でゆっくり過ごさせてやりたいと気遣ってくれたのだ。 「そうか。まあカネのヤツも一之宮(いちのみや)の手作りとくれば嬉しいに違いねえだろうしな」  それよりも――と、周(ジォウ)は冰(ひょう)の頭を撫でながら言った。 「こういうのもいいもんだな。あなた、お風呂にする? それともご飯?」 「――え?」 「さっきそう訊いてくれたろうが。新婚夫婦みてえで、こういうのを幸せっていうんだなと思ってな」  その言葉に鍋を覗き込みながら冰(ひょう)はポッと頬を染めた。 「焔(イェン)さん……」 「まあ、お前さんはこの俺に嫁いで来た嫁さんだからな!」  周(ジォウ)はそう言って不敵に笑ってみせた。″嫁いだ″というのは例のショーでのコンセプトのことを言っているのだと分かっていても、冰(ひょう)にとっては心がくすぐられるような弾むようなあたたかい気持ちが沸々と湧き上がる。 「じゃあ着替えてくる。メシがもう出来そうだから先にいただこう。風呂はその後だ」 「はい、焔(イェン)さん!」 「いつもありがとうな、奥さん!」  撫でていた頭をクシャクシャっとして、周(ジォウ)は着替えの為にキッチンを出て行った。 「うん、いい具合に煮れたかなー」  小皿に煮汁を少し。味もなかなかにいい具合で、身が崩れることもなく上手に出来上がったようだ。 (お、奥さん……だって)  周(ジォウ)に言われた言葉を思い出してはますます頬が染まってしまう。ドキドキと心臓が大きな音を立て始めて、冰(ひょう)は真っ赤に熟れた頬のままモジモジ。嬉しいそのひと言に、一人キッチンでパタパタと身をよじるのだった。

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