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通されたのはダイニング兼リビングといったところだろうか。大きなテーブルには真っ白なクロスの布が敷かれていて、その上に銀製のカトラリーやシュガーポットなどが並べられていた。テーブルの中央には綺麗な花が置かれているが、どうやら造花ではなく生きている花のようだ。フラワーアレンジメントのようにとても綺麗に生けられている。よく高級レストランで見られるような設えだ。
全面ガラス張りの窓からは先程の長い廊下で見たのとは逆側の東京の景色が眺望できた。
「わ……ッ! レインボー……ブリッジですよね、あれ」
見下ろす位置に東京湾とレインボーブリッジが夕陽に染まっている。いったいここは何階に当たるというのだろう。マンションにしてもえらい高層階に思える。というよりも、駐車場に着いてからここへ来る間の廊下には壁だけで他の家と思われるドアなどはなかったはずだ。
(まさかこの階全部が焔 さんのお家ということなのかな……)
レイのギムナジウムも豪華絢爛といえるが、ここはまた戸建ての館とは違った趣きと豪華さだ。何よりこの素晴らしい眺め一つとっても絶品といえる。まあ、香港を仕切るマフィア頭領 の家柄なら驚くようなことでもないのかも知れないが、それにしても若い冰 にしてみれば異次元といえる。
「ふぁあ、すごい景色……。ふわぁ――」
もはや『うわぁ』とか『ふわぁ』といった溜め息以外出てこない。こんな豪勢なマンションだ。他にもきっと大企業のトップやら芸能界の大物といった有名人が住んでいるんだろうな――などと思っていた冰 を驚かせたのは、想像を遥かに超える現実だった。
「本当に……すごいマンションですね……。他にはどんな人が住んでるんだろう」
思わずポツリと漏らしてしまった冰 に、周 はクスッと笑んだ。
「マンションってわけじゃねえぞ。ここから下十階部分は将来モデルを引退した際に起業しようと思って私有階にしているんだが、それより階下 はテナントとして貸し出していてな」
「ほえ……? えっと、ではこのビルは焔 さんが所有なさっているのですか……?」
「ああ。ここは元々お袋が持っていた土地だったんだが、俺が日本に来るに当たって譲り受けたんだ」
ええ――ッ!?
「こ、このビル――っていうか土地から全部が焔 さんの……」
「譲り受けたといってもちゃんと代金は済んでるぜ。建築費用だってお袋には頼らずにちゃんと自分でやりくりしたことだしな」
「は……あ、はぁ……」
周 は若干はにかみながらも笑うが、それこそどう相槌ちを打っていいかすぐには言葉が出てこない。
「といっても――一等最初にここを建てた際には香港の親父から援助してもらったわけだが」
それもモデルの報酬とこのビルのテナント代等で少しずつだが返済しているそうで、いずれ起業を考えている商売で完済を目指しているのだそうだ。ついでに、今いるこの部屋はビルのペントハウスで、フロア全体が周 のプライベート――つまりは自宅ということだった。
とはいえ、個人が住むには広過ぎる。どうやら先程の真田 という執事以外にも使用人はたくさんいるらしく、その者たちが住む個別の自宅となっているそうだ。今はギムナジウム暮らしだが、香港から共について来てくれた李 や劉 、医師の鄧浩 らの部屋もあるそうだ。鄧浩 に至っては自室の他に医療施設も備えられていて、相当な設備が整っているらしい。一般的な感冒はもちろんだが、例えば大きな外科手術なども可能だという。
まあ、周 は龍首頭領 の息子だ。いつ何時 、何が降り掛かるか分からない身の上だ。敵対組織から命を狙われる――などということはこの日本にいる限りおおよそ無いだろうが、それも絶対無いとは言い切れない。そんな時の為の準備ということなのだろう。しかも、周 はこの土地は元々お袋の持ち物だったと言ったが、ということは彼の母方の実家も大金持ちということになる。実際、周 の実母というのは財閥のご令嬢なのだが、冰 がそれを知るのはまだ少し先のことになるのだった。
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