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73 あたたかい援護射撃?
その後、執事の真田 に甲斐甲斐しく世話を焼かれながら豪華なフレンチのフルコースディナーをいただいた冰 は、今日一日のことが夢のようであり、未だ現実感がないまま夢見心地でぼうっとしてしまっていた。
ディナーの最中に沈んだ夕陽が、一料理毎に煌めきを増す大都会の灯りに移り変わっていく優雅な空間で、まさに夢を見ているようだ。食後酒とコーヒーにデザートが運ばれて来る頃にはすっかり宵闇に包まれた街全体が、まるで宝石箱のように輝いていた。
「さて――冰 。休みはまだあと五日も残ってるからな。今夜はここへ泊まっていくか? それとも――」
お前さんがギムナジウムへ帰りたいというのなら一緒に帰るが? と訊かれて、冰 はようやく我に返る心持ちでいた。
「あ、はい……! あの……焔 さんはお久しぶりのご実家でしょうから……。ど、どうぞ泊まられてください。僕は一人で帰れますから!」
眼下に浜離宮。少し遠目にはレインボーブリッジが見えるということは、おそらく汐留辺りだろう。レイの館は白金台だからそう遠くはない。まだ電車も十分に動いている時間だし――窓の外を眺めながらそんなことを思っていた冰 だったが、次の瞬間、その窓に自分を後方から抱き包む周 の長身が映し出されて再びハッと我に返った。
「バッカ。お前さんを一人で帰すわきゃねえだろうが」
ふわりと立ち昇った香りはいつも周 が付けている仄かな香水の香りだ。
「焔 ……さん、でも」
「でも――じゃねえ。お前さんが帰るなら当然俺も一緒に帰る。俺はお前さんの旦那だからな」
そう言って軽く黒髪に口付けられた。
「だが、泊まっていってもいいと言ってくれるなら――」
周 がそう言い掛けた時だった。
「うっはぁ――! すっげすっげ! マジですっげえ絶景だべ!」
「だろう? ここから見る夜景は滅多にお目に掛かれねえ貴重品だ」
ワイのワイのと後方から聞こえてきた声は紫月 と鐘崎 のものだった。すぐにダイニングの扉が開いたと思ったら、真田 に案内されて二人が姿を現した。
「よ! 焔 。言いつけ通り、やって来たぜ」
「周 さん、お邪魔するぜぃ!」
どうやら二人がここへ来ることは事前に決まっていたようだ。
「お! 冰 君もこんばちはー! 今日のドライブデート楽しめたかー?」
フリフリと紫月 が手を振りながらにこやかに近付いてくる。
「紫月 さん! 鐘崎 さんも――」
驚く冰 の傍らでは鐘崎 が何やらニヤニヤとしながら珍しくも悪戯な表情を見せている。そしてひと言、
「実はな、冰 。焔 の野郎がお前さん一人じゃ泊まらねえで帰るって言い出すに違いねえだろうからって。それで俺たちが″ダシ″に使われたっていうわけだ」
これまた珍しく冷やかすようにウィンクまでしてよこす。当の周 は企みを暴露されてアタフタ。口をパクパクとさせながらも、『この野郎、余計なことをバラしやがる』とでも言いたげに焦ったり拗ねたりの百面相を繰り返している。そこへ追い討ちを掛けるように紫月 がまた、″余計なこと″を付け加えてよこした。
「周 さんも可愛いところあるよなぁ! 自宅に冰 君を招いて、どうせなら泊まってってもらいたいけど、冰 君の生真面目な性格からして絶対遠慮するだろうからって。そんでもって俺たちもお呼ばれすることになったってわけさ」
「え……? そうなんですか?」
冰 はキョロキョロとしながら周 と鐘崎 らを見つめている。
「そうなんですよー! ほら、俺らが一緒に泊まれば冰 君だって遠慮しねえだろうって周 さんがさ」
ププっと口元を手で覆いながらも目をカマボコ形にして鐘崎 と紫月 が湧いている。
「て、てめえらー……」
周 は周 で、よくもそこまで堂々と暴露してくれたなと恨み節ながらもその頬には薄っすらと朱が差している。
「まあまあ! いいじゃねえか焔 。冰 も泊まりで了解だな?」
「あ、はい……あの……僕なんかがお邪魔してよろしいのでしたら」
「だとよ。良かったな焔 !」
ポンと周 の肩を叩いては、鐘崎 は未だニヤっとしながらまるで我が家の如くダイニングの椅子を引いて腰掛ける。紫月 の方はここへ来るのは初めてだったのだろう、冰 を誘って高楼から見下ろす絶景に感嘆の声を上げている。
何はともあれ冰 も泊まっていくことになったわけだし、この親友らの毒舌にも目を瞑るとするか――と、肩をすくめては自身もまた友の対面に腰を下ろす周 だった。
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