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「そっか――。おめえもそんなふうに思うようになってたんだな」
鐘崎 もまた、カランとグラスの氷を揺らしては瞳を細めた。
「暴露しちまうとな、あの時思ったんだ。俺は確かに――紫月 にこれまで感じたことのねえような強い想いを抱き始めてて――それに戸惑ってもいた。一目惚れなんて――ドラマか映画の中だけの話だろうと思ってもいた。だが紫月 に出逢って実際にそんなことが起こるんだって驚いたもんだ。こんな気持ちを相談できるのはおめえ以外にいないし、だが出会って間もない紫月 に惚れちまったかも知れねえとはさすがに言い出せなかった。その時に思ったんだ。いつか――いつかお前も、あの冰 と過ごす内に俺と同じような想いを抱くようになればいい。そしたら二人でああでもない、こうでもないって相談し合える。そんなふうに思ってな」
冰 は素直で純粋で、側に居るとホッと心が和むようなやわらかい雰囲気を持っている青年だ。別段、恋を意識しなくともただ一緒に居るだけで心地好いと思えるのは確かだから、共に暮らす内にそれが淡い感情に発展してくれたらいいのにと夢描いたものだ。
「そうだったのか。あの時は気付かなかったが、おめえが何かに悩んでるんだろうってな雰囲気は感じていたんだ。そうか、あの頃から一之宮 をな」
それで――俺たちの想いってのは互いに見込みがあると思うか?
言葉にはしなかったものの、視線の動きだけで互いの気持ちが分かってしまった。
「さあな。どうだかな――。紫月 に嫌われてるとは思っちゃいねえが、同僚や相方という関係性を超えたところでどう思われてるかってのは自信がねえな」
「なんだ、てめえもかよ。俺も冰 に嫌われちゃいねえだろうとは思う。おそらく好いてくれてるとも感じるが、はたしてそれは俺が望むような気持ちなのか、ただ単に仕事場の先輩として憧れや尊敬のような気持ちで好いてくれてるのかは分からねえ」
「てめえが望むような気持ち――?」
解ってはいるものの、なんとなくはっきりと言葉にして聞いてみたい――そんな鐘崎 の思いに気付いたのか、周 はわずか切なげに笑みながら言った。
「そうだ、俺が望むような気持ちだ。そいつは案外激しくて――身も心も、頭の先から爪先、髪の一本まですべてを俺のものだと言って欲しい気持ちだ。あいつを裸に剥いて隅から隅まで愛撫して抱き潰しちまいてえくれえ激しい気持ちだ」
「焔 ……おめえ」
「なんだ。そんなびっくりしたようなツラで見るこたぁねえだろ。おめえだって似たような気持ちだろうが」
ニッと不敵に流し目を送られて、鐘崎 はタジタジと苦笑。
「まあな。けど――まさかおめえの口からそんな激しいセリフが聞けるとは思っちゃいなかったからよ」
「激しい? てめえに言われたかねえわな。ってよりも、男が本気の恋をすりゃ大概は激しいってもんだろが」
好きだからこそすべてを手に入れたい、本気で抱きたいと思うのは極々自然なことだろうが――周 も負けじと口角を上げて苦笑する。
「ま、まあな」
二人、どちらからともなく遠目の視界に映るベッドを見やる。想いを寄せる者たちが寝息を立てているベッドだ。
「すっかり夢の中か」
「可愛いツラしやがって」
「なあ、焔 ――」
「ん? なんだ」
「おめえ、あのベッドに一緒に潜って寝る勇気あるか?」
「うーむ……やめておいた方が賢明かも知れんな」
つまり、愛しい者、それももしかしたら完全に片想いかも知れない者の寝顔を見つめながらただ側で眠るだけなど拷問に等しいということだ。
「仕方ねえ。俺らは客室で頭を冷やすとするか」
「せっかくのこんな好機だ。正直惜しい気もするが――それが賢明だろうな」
二人は共に苦笑うと、チンとグラスを合わせては残りの酒をあおった。
いつか――そう、いつか互いの想いが報われる時がくるといいな。
男二人、親友二人、そんな熱い夢を語り尽くした夜だった。
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