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76 互いに助け合わねばな!
翌日、周 邸から戻った夕方のことだった。
「紫月 ――。明日だが、何か予定はあるのか?」
わずか遠慮がちながら鐘崎 がそう訊いた。
「ん? ああ、うん。明日な。実家に顔出してみようかと思っててさ」
「実家――というとお前さんちの道場か?」
「うん、そう。なんせこんな長い休みがもらえるなんてモデル始めて以来無かったからなぁ。たまには顔見せに帰って来いって親父がさ。まあ、こないだの香港でのことも一応報告しなきゃなんねえしと思ってさ」
「そうか。確か埼玉だっけ?」
「うん、三郷ってトコ。つか、遼 は? たまには親父さん帰って来いとか言わねえ?」
「――ああ、まあな」
鐘崎 は先日の冰 救出の件についても既に父親への報告が済んでいる。そもそも父の僚一 も日本に居ながらして捜索に助力していたことだし、組番頭の東堂源次郎 が行動を共にしていたわけだ。確かにモデル稼業に入ってからというもの、実家に立ち寄る機会は減っているものの、日々の報告は常々上げることになっているので今更といったところでもある。それ以前にこんなにゆっくりと休みが取れるのも滅多にないので、鐘崎 としてはこの紫月 と共にどこかへ出掛けたいなどと思ってしまうのだ。
だがまあ実家へ帰るというのなら邪魔するのも無粋と諦めようとした時だった。
「だったら俺たちも同行させてもらえんか?」
いつの間に入って来たのだろう、そこには不敵に笑みを浮かべた周 が冰 を伴いながら立っていた。
「イ、焔 ……おめえ、どうして」
鐘崎 が驚きに目を見張るも、当の本人は堂々たるものだ。
「鍵が開けっ放しになってたからな。一応声は掛けたつもりだが?」
嘘か誠か呼び掛けても返事がなかったので勝手に邪魔したのだと言う。長身の背後では冰 が小鍋を抱えて瞳をクリクリとさせていた。
「実はな、冰 が晩飯を作ってくれたもんでな。おめえらにもお裾分けしようってことになったんだ」
今日はおでんを煮たそうだ。鍋からはほんわりと美味しそうな匂いが漂っている。それを見て、紫月 がすかさず感嘆の声を上げた。
「うわーお! 美味そうな匂いだ! 遼 、おでんだって!」
やったな! と、掛けていた椅子から軽々立ち上がっては鼻先をクンクンとさせて笑む。
「たくさん煮たのでよろしかったらと思いまして」
冰 は相変わらずに可愛らしい仕草で鍋を差し出す。
「ありがとなぁ、冰 君! 遠慮なくご馳走になるぜー!」
鍋を受け取りながら先程の周 の問いに答える。
「そうそう、明日だけどさ。良かったら皆んなでウチ来ねえ? 大したもてなしもできねえっけども」
今度は紫月 が車を出すからと言う。
「おう、そうか。そんじゃお邪魔するぜ。なぁ、カネ!」
周 にポンと肩を叩かれて鐘崎 はガラにもなく赤面。
「あ、ああ……迷惑じゃなけりゃ是非」
おずおずながらもとびきり嬉しそうに頭を掻く。
「マジ? んじゃ決まりな!」
紫月 は早速にテーブルへと小皿を並べ始めた。
「どうせなら冰 君たちもここで食ってかね?」
明日の相談がてらさ――と言って、ビールや酒のグラスまで戸棚から引っ張り出す。
「そうだな。じゃあ冰 、うちのおでんも持ってくるか」
「はい、焔 さん! ご飯も炊き立てですし、ジャーごと持って来ましょう」
「あ、だったら俺も運ぶの手伝うぞ」
鐘崎 は嬉しさを抑え切れないわけか、ソワソワとしながらジャー運びに腰を上げる。結局、周 の気を利かせた計らいで明日の休みは一之宮 家の道場へ同行できることとなったのだった。
隣の部屋へと向かいながら周 が鐘崎 を肘で突っつく。
「良かったな、カネ! 一之宮 の実家へ行けるぞ」
「あ、ああ。おめえには感謝してる」
「ふむ、昨夜はおめえに世話になったことだし、互いに助け合わんとな」
周 は周 で、次に何かあったら今度はまたお前が加勢してくれよと悪戯な笑みを浮かべる。
「も、もちろんだ。それよかおめえ……さっき″うちのおでんも″とかぬかしてやがったな。すっかり夫婦かよ……」
羨ましいことだとばかりに鐘崎 が溜め息まじりでいる。
「んあ? だってそうだろ。ここは俺と冰 の棲み家なわけだ。イコール俺たちの家ってことだろが」
「あー、はいはい。仲がよろしくて結構なことだ」
「まあそう拗ねるな!」
ニヤニヤと周 は得意顔をしてみせる。そんな二人のやり取りを横目に、冰 もまた、密かながらモジモジと嬉しそうに頬を染めるのだった。
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