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77 一之宮道場へ

 翌日、朝は花曇りだった空が車を走らせる内にすっかり晴天の青空となった。今回は紫月(しづき)が車を出して、鐘崎(かねさき)が助手席。(ジォウ)(ひょう)は仲良く後部座席で肩を並べている。 「三郷か。案外近いものだな」  (ジォウ)がゆったりとシートに背を預けながら暢気な声を上げている。 「まあなぁ。高速が混んでなきゃホントすぐなんよ!」  紫月(しづき)は薄い色のサングラスを掛けて午前の強い陽射しを遮っているが、その出立ちがまた何とも艶めかしい。隣に座る鐘崎(かねさき)がチラチラと遠慮がちにその横顔を見ている姿に、(ジォウ)はクスりと笑みを誘われるのだった。 ◇    ◇    ◇ 「うわぁ……大きなお寺さん」  着くなり(ひょう)が感嘆の声を上げている。広大な土地の周囲は背の高い立派な木々で囲まれていて、都会の喧騒を忘れさせるのどかな雰囲気だ。緑に囲まれた寺の建物は非常に立派で、(ジォウ)鐘崎(かねさき)も『ほうっ』っと思わず溜め息を漏らしてしまったほどだった。 「たーだいまぁ。親父ー、爺さん、帰ったぜぇ」  中庭に回り込んで紫月(しづき)が呼び掛けると、縁側からひょっこり顔を見せたのは見知らぬ男だった。歳は紫月(しづき)の父親と同年代といったところか、どこかで見たことがあるような無いような――だが非常に整った顔立ちをしていて、体格も堂々立派な男だった。 「……こんちゃ」  客人かなと思った紫月(しづき)がひとまずそう声を掛けたが、男の方はえらく親しげな笑みを向けてくる。 「紫月(しづき)坊か! 立派になりやがったなぁ」 (……えっと、誰だっけ)  ポカンと口を開けたまま突っ立ってしまった紫月(しづき)の後ろで、 「――親父!? なんでここにいるんだ?」  驚いた声を上げたのは鐘崎(かねさき)だった。 「え!? 親父……さん? って、(りょう)の親父さんなん?」  キョロキョロと交互に父子らしい二人を見つめる紫月(しづき)だったが、またしても縁側から暢気な声が聞こえてきた。 「おう、紫月(しづき)か。案外早かったな」  着くのは昼頃になると思ってたなどと言いながら姿を現したのは渋い和服がよくよく似合っている中年の男、紫月(しづき)の父親・一之宮飛燕(いちのみや ひえん)であった。 「親父! た、ただいま。つか、その……あの」  未だ鐘崎(かねさき)とその父親だという男性を交互に見つめながら目を丸めている。 「紹介しよう。こちらは鐘崎僚一(かねさき りょういち)遼二(りょうじ)坊の親父殿だ」  飛燕(ひえん)(ジォウ)(ひょう)にも「よく来てくれた」と微笑みながらも縁側を降りて皆の元へとやって来た。 「や、あの……もしか親父と(りょう)親父(おや)っさんとは知り合いだったってこと?」 「そうさ。今日はお前さん方が来るというので僚一(りょういち)にも声を掛けたんだ」 「はぁ……そう」  未だポカンとしている紫月(しづき)の傍らでは、鐘崎(かねさき)が父親に向かって「来るなら来るでそう言っておいてくれればいいのに」と呆れ顔でいる。 「まあそう言ってくれるな。ちょいとサプライズになるかと思ってだな」 「事前に教えといたんじゃつまらんじゃねえか」  などと父親同士は暢気なものだ。 「僚一(りょういち)とはおめえらが生まれる前からの付き合いでな。ああそうそう、(イェン)の親父さんの(スェン)とも腐れ縁の仲だぞ」  つまり、父親同士はずっと以前から懇意の仲だったというわけか。驚かされたのはそれだけではない。 「(ひょう)君の育ての親の老黄(ラァオ ウォン)にもたいへん世話になったものだ」 「その通り! 俺たちが若かりし頃にカジノでのノウハウを教わったのが老黄(ラァオ ウォン)だったんだぞ」  そう言われて若者四人はほとほと驚かされてしまったというところだった。 「なんだよ……んじゃ親父たちは俺らの知らねえところですっかり知り合いだったってわけ?」 「ああ。お前さん方の面倒を見てくれているレイも同様だ。あの頃は周隼(ジォウ スェン)とレイと俺たち、四人で老黄(ラァオ ウォン)の元へ通ったもんだ」  懐かしいなぁと言っては笑う。 「つかよ、暢気にもほどがあるっつーか……知らなかったのは俺らガキだけってことかよ」 「意地の悪ィ親たちだ」  紫月(しづき)鐘崎(かねさき)が口を尖らせる横で当の父親たちは豪快に笑う。 「何を言う。どうせお前らのことだ。わざわざ俺たちがああこう知らせんでも、結局はこうしてちゃんと仲間になってるじゃねえか」  それでこそ俺たちの息子たちだと微笑ましい顔まで見せられて四人はタジタジ、呆気に取られながらも苦笑いを浮かべるのだった。

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