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「そういや紫月 坊はウチの組にも遊びに来たことがあるんだぞ。まだ三歳かそこらだったから覚えてねえかも知れんがな」
鐘崎 の父・僚一 の言葉にまたもや驚かされる。
「え、マジ? んじゃ、俺はガキン頃に遼 の家に遊びに行ったってこと?」
「ああ。その頃は何度か連れてったわな。遼二 坊はもう小学校に上がってたから覚えてねえか?」
僚一 に続いて飛燕 からそう言われるも、鐘崎 にも記憶が曖昧のようだ。
「まあ連れてったと言っても、紫月 はまだ三つかそこらだったしな。そういや遼二 坊は学校に行ってたし、一緒に遊んでもらったというわけでもないから、覚えとらんでも仕方ないか」
「はぁ、すみません。ですが――まさか紫月 が俺の家に来たことがあったとは」
なんだか嬉しいですねと気恥ずかしげに頭を掻く。確かに同じ裏の世界に生きる父親たちだ、懇意にしているのも当然といったところなのだろう。
それにしても不思議な巡り合わせだとつくづく思う。鐘崎 と周 は幼い頃からそれこそ父親繋がりの縁でしょっちゅう顔を合わせていたわけだが、鐘崎 組の行動範囲がアジア圏全体だったのに比べて一之宮 一族の活動はほぼこの日本国内だった上に子供たちの年齢も少し離れていたこともあって、互いに幼少期を共にした記憶がないということなのだろう。加えて、この父親やレイたちまでが冰 の育ての親である黄 老人とも懇意の仲だったとは驚きだ。
「ほう? だったら俺たちはよくよく縁があったってわけだな」
周 が嬉しそうな笑みを見せる。冰 もまた然りだ。
「はい、まさか焔 さんたちのお父様がじいちゃんのことをご存知だったとは――」
そんな昔から互いに縁が繋がっていたと知って心躍るような気持ちになる。
「嬉しいなぁ。そっかぁ、焔 さんや鐘崎 さん、紫月 さんのお父様たちとじいちゃんがお知り合いだったなんて」
言葉通り本当に嬉しそうに頬を染めた冰 に、周 もまた幸せな心持ちになるのだった。
「まあ立ち話もなんだ。とにかく上がってくれ。寺の本堂と道場の方も案内しよう」
その後の昼食は近くの鮨屋を貸切りで予約してあるそうだ。カウンター席に座って、目の前で板さんが握りたてをご馳走してくれるとのことだった。
◇ ◇ ◇
一之宮 家の中を一通り見学して歩いた後、皆で鮨屋へと移動した。
「らっしゃい! ほう、こいつぁまた……ホントに男前揃いだなぁ」
カウンターの暖簾から出迎えながら店主が歓迎の声を上げている。
「大将、世話になるよ」
飛燕 はよくこの鮨屋を利用しているようで、店主とも気心の知れた仲らしい。もちろんお好みでも握ってくれるとのことだったが、年若い冰 などが遠慮して好きな物を頼めないといけないという配慮からか、席に着くと各人に数種類のネタが乗った握りが配られた。
「まあとりあえず乾杯といこう。あとは大将に好きなもんを言ってくれれば握ってくださる」
握りの他にも刺身としても出してもらえるという。
「うわぁ……! 綺麗! 食べちゃうのもったいないくらい」
色とりどりの握りが一人前ずつ乗った板を眺めながら冰 が感激に目をパチクリとさせている。とにかく各人に一皿ずつが配られているので、これなら冰 でも遠慮せずにいただくことができそうだ。
「焔 、冰 の面倒をよく見てやってくれな」
飛燕 に言われて、周 も有り難くうなずいた。
「ありがとうございます。遠慮なくご馳走になります」
「うむ、皆んなも好きなネタを言ってくれな」
若者たちの邪魔にならないようにとの配慮からか、飛燕 と僚一 はカウンターの端に陣取って酒を酌み交わし始めた。その横では鐘崎 と紫月 、そして周 と冰 とで四人並んで鮨を堪能。
「冰 、苦手なネタはあるか?」
「いえ、嫌いな物はありません。焔 さんは?」
「俺も好き嫌いはねえな。それじゃ鯛はどうだ」
「はい、好きです」
「大将、鯛を刺身でお願いできますか?」
「あいよ! 鯛! めで鯛ねぇ」
粋で威勢のいい返事がカウンター内から返ってくる。それを横目に、鐘崎 もまた、隣の紫月 に俺たちもいただこうかと尋ねた。鐘崎 には周 がなぜ鯛を注文したのか、その意味するところが分かってしまったからだ。案の定、周 も鐘崎 を見遣りながらニヤっと不敵な笑みを浮かべている。
刺身が出されると周 がひと言、
「それじゃ俺たちの目でたい縁と出会いに乾杯といくか」
しれっと普通に言いながらも、その言葉の陰には『オンもオフもひっくるめてこれからも仲睦まじくあろう』という意味が込められている。分かっているのは鐘崎 と周 だけかも知れないが、紫月 も冰 も普通に嬉しそうにして盃を掲げた。
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