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79 仲良きことは♡
結局、飲んでしまったこともあり、この日は一之宮 家に泊まらせてもらうこととなった。父親二人も含めて六人一緒に大部屋に布団を敷いての修学旅行気分だ。まるで旅館の如く部屋の端のテーブルで酒や茶を飲みながら、眠くなった順に横になろうという話となった。
普段、同部屋で生活中のカップルたちだが、寝室はそれぞれ別である。こうして布団を並べて眠るのは初めてということもあってか、冰 などはやたらにドキドキとしながらも頬を染めるのだった。
皆は一之宮 家で借りた浴衣に身を包んで、そんな互いの姿も新鮮に映る。特にフォーマル部門担当の周 と冰 にとっては浴衣という見慣れない出立ちにときめきを感じるわけか、これまた冰 にとってはそんなすべてが心拍数を上げる原因となっているようだ。周 はさすがの年の功で堂々たるものだが、ラフに着崩した胸元や裾から覗く男らしい素足などが冰 には目の毒のようだ。
(か、カッコいいなぁ焔 さん……。浴衣姿を初めて見るっていうのもあるけど、ホントに何を着ても似合っちゃうんだから)
そんな冰 の思いを知ってか知らずか、周 は既にゴロリと布団に横たわりながら腕枕で自身の頭を支えながら皆の話に相槌を打っていたりする。時折笑うその笑顔が眩しくて、密かに染まった頬を隠す冰 だった。
「冰 、眠くなったら遠慮せずに布団に入っていいんだぜ」
クイクイと手招きをしながら周 が笑む。当然寝床は俺の隣だと言われているようで、ますます心臓が脈打つ。
「はい、あの焔 さん……じゃあ遠慮なく……お隣にお邪魔します」
まるで三つ指ついて――といった具合で丁寧にお辞儀をした冰 に、僚一 と飛燕 の父親二人は微笑ましい笑みを浮かべる。
「お前さん方、コンセプトが溺愛だと聞いたが、本当に仲睦まじいことだ」
「ああ、よくよく似合いのカップルだな」
そう言われて周 は上機嫌だ。
「親父さんたちにそう言っていただけて嬉しいです」
側にやって来た冰 の掛け布団を開いては、「ほれ、寝ろ」と世話を焼いている。それだけに留まらず、頬染めながら布団に包まった冰 の掛け布団の上から、まるで子守唄でも聴かせる勢いでポンポンと叩く。今にも『眠れー眠ーれ』と聞こえてきそうだ。それを見ていた鐘崎 が羨ましく思ったのは言うまでもなく――。
「紫月 ――俺も歌ってやろうか。その……なんだ、子守唄でも」
などと言った途端に柄にもなくボッと赤面。そんな息子の姿に目を丸くしてしまった僚一 だった。
「おーし! そんじゃそろそろ寝るべか。遼 、俺たちも隣でいいよな!」
マジで子守唄歌ってよ! と身軽な動作で布団をめくると、これ当然と鐘崎 に向かってニッと笑んでみせた。
「お、おう……。歌はその……下手だけどな……」
その横では未だ周 が冰 の掛け布団の上からポン、ポンと手でリズムを取っている。
「ね、ねーむれー、ねーむれー……」
咳払いと共に鐘崎 が歌い出すと同時に、「遼 ぉちゃんの胸ーでぇー」と紫月 が続けたのに、ドッと場が湧いた。皆でケラケラと笑い合い、和気藹々。父親たちもそろそろ休むかと言って全員が床に着いたのだった。
それからしばらくの後、どこからともなく順々に誰かの寝息が聞こえてきた頃――。
「な、遼 ――起きてるべ?」
声をひそめがちで紫月 が言った。
「ん? ああ、起きてる」
隣の周 が冰 の布団を叩く音も止んで、だらりと腕が掛け布団に乗ったままだ。父親たちも寝入ったようで、微かなイビキまでが音を立てている。紫月 はくるりと身を翻すと、枕を抱き抱えるように肘をつきながら小声で話し始めた。
「な、今日の昼間さ。ガキん頃、俺が親父に連れられて遼 の家に遊びに行ったことがあるって言ってたべ?」
「ああ。正直俺もよく覚えてなくてな。親父のところには仕事の依頼者とかが頻繁に出入りしてたってのもあるが、まさかお前さんがうちに来てたとは驚いた」
「だよな。俺が小っさかったってのもあると思うけど、遼 に紹介されたって覚えもねえしさ」
それよりも――と言って紫月 は隣の鐘崎 を見つめた。鐘崎 もまた、先程寝る前に周 がしていたように自身の頭を腕枕で支えながら横向きで紫月 の話に耳を傾ける。
「遼 ン家ってさ、地下に道場みてえな広い部屋が――あったりする?」
「――? ああ。地下には体術の稽古場があるが」
なぜ知っているのだと不思議顔だ。
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