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80 遠い日の記憶

「やっぱそうか。んじゃ、俺ン記憶は正しかったってわけだ」 「――? 記憶って?」 「ん、実はさ――」  紫月(しづき)の言うことには、幼い頃父の飛燕(ひえん)に連れて行かれたどこかの家で少し歳上の少年が武術の稽古をしている姿を見た覚えがあるというのだ。 「覚えてんのはものすっげデケえ家だったってことと――親父が話し込んでるのを待ってるのが飽きちまったってのもあったんだろうけど、俺は一人でその家の探索に歩いててな。その内迷っちまったんだろうな、階段を降りたところにめちゃくちゃ広い部屋があって、そこで俺よりちょっと歳上かなって思える兄ちゃんが稽古してるのを見たんだよ」 「稽古――」 「うん。あれ、多分空手着だったんじゃねえかな。稽古の相手は大の大人で、でもその兄ちゃんすげえ強くてさ。でっけえ大人相手なのにバッタバタ倒してさ、めちゃくちゃカッコいいって感動したんだ」  あれ、もしかして(りょう)だったんじゃねえか――?  その言葉を呑み込みながら紫月(しづき)は続けた。 「俺ン家は爺さんが寺の坊さんだけっども、知っての通り道場もやってるべ? 親父は坊さん修行をしねえ代わりに師範でいてさ。俺も物心ついた時には武術の稽古するのが当たり前になってたんだけど。実を言うと毎日の練習が面倒臭えって思うこともあってな。家が道場なんてやってなきゃいいのにとか思ったこともあったんだ。けどあの兄ちゃんを見た日から考えが変わったんだ。俺もいつかはあんなふうに強くなりたい、格好良くバッタバッタと敵を薙ぎ倒すようになれたらいいって」  その日以来、率先して稽古に励み、気構えも変わっていったというのだ。 「どこの家で会ったかは覚えてなくてさ。それ以来その兄ちゃんを見掛けることはなかったんだけど――。地下に道場みてえな広い稽古場がある家はあの時一度きりしか見たことがなかった。だから――あれは(りょう)だったんじゃねえかって」  歳の頃からして少し上だったし、とにかくすごく格好良くて憧れたそうだ。 「俺さ、一生懸命稽古して強くなれたら――いつかどこかであの兄ちゃんにもう一度会えるんじゃねえかって思っててな」 「――紫月(しづき)」 「あれ、(りょう)だったんだな――」 「そ……んなことがあったのか。俺は気付かなかったが――確かにガキの頃から組員たちに稽古の相手してもらってたから」  その時に紫月(しづき)が見た大人というのは組員たちのことだったのかも知れない。まあ、バッタバッタ倒していたというのは、組員たちがわざと負けてくれてただけだろうが――と苦笑ながらも鐘崎(かねさき)は言った。 「紫月(しづき)――もう一度俺の家に来たら――その時に見た稽古場だって思い出せるか?」 「んー、なんせガキん頃だったからな。けど、ひとつだけはっきり覚えてんのはその稽古場みてえな部屋の天井に細い窓があったってことくらいかな。太陽の陽が眩しいくらいキラキラしてて、あの兄ちゃんに降り注いでたっていう感じが強烈でな」 「細い天窓なら――あるぞ」 「――マジ?」

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