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82 鐘崎組へ

 次の朝、紫月(しづき)が目覚めると隣の布団は空だった。反対側を向くと(ひょう)(ジォウ)もちょうど目を覚ましたところだったのだろう、モゾモゾと布団の山が動いていて『おはようございます(イェン)さん』という(ひょう)の声が聞こえてきた。 「(ひょう)君、はよ。ってか、(りょう)はもう起きたんかな……」  寝ぼけ眼で布団から身を起こす。室内を見渡せど、父親たちの布団も既に空だった。と、そこへ父の飛燕(ひえん)がやって来た。 「ボウズ共、起きたか? 朝飯出来てるぞ」 「親父……? 悪ィ、手伝わねえで」  紫月(しづき)が目を擦りながら言うと、飛燕(ひえん)はクスッと笑った。 「いいってことよ。メシの支度は僚一(りょういち)遼二(りょうじ)坊が手伝ってくれたんでな」  その言葉にガバリと布団から起き上がった。 「マジ!? (りょう)が……?」 「ああ。お前さんたち、今日は遼二(りょうじ)坊の家へ行くんだろ?」  それを聞いて不思議顔をしたのは(ジォウ)だ。 「カネん家に行くのか? これから?」 「ああ、うん。昨夜そういう話になってさ」  紫月(しづき)は照れ臭そうに頭を掻いている。 「ほう? 俺らも邪魔していいってか?」  (ジォウ)はニヤっと笑みながら、いつの間にそんな話になったんだ? と、冷やかすような視線を向けてよこした。 「もち、いいに決まってるべ。つか、車一台で来てるわけだし……さ」  そこへエプロン姿の鐘崎(かねさき)が顔を出した。 「カネ――? おめえ、そのカッコ……」  (ジォウ)は珍しいものでも見るように呆気に取られている。鐘崎(かねさき)もまた、紫月(しづき)同様照れ臭げに頭を掻いてみせた。 「ん、おめえらの朝飯を――な。つっても俺ァ大したことはしてねえんだが」  殆ど飛燕(ひえん)が作って鐘崎父子(かねさき おやこ)はそれを皿に盛り付けたりしただけだそうだ。 「いや、遼二(りょうじ)坊たちが洗い物もしてくれたんでな。助かったぞ」  飛燕(ひえん)に礼を言われて、鐘崎(かねさき)はますます気恥ずかしそうに照れてみせた。  早起きして朝食を作る手伝いまでしたところを見ると、紫月(しづき)を自宅へ招くことがそれほどに楽しみだったのだろう。 「すまねえ、(りょう)! 俺がやんなきゃだったのに」  慌てて布団を抜け出した紫月(しづき)に「よく眠れたか?」などと気遣い、二人して照れ合う様子を横目に(ジォウ)は彼らの仲が急速に近くなったことを感じ取ったのか、「ふむふむ」と密かに嬉しそうな顔をするのだった。  皆で朝食の卓を囲み、そのまま鐘崎(かねさき)邸へ移動することとなった。そういう話であれば――と、僚一(りょういち)飛燕(ひえん)の父親たちも一緒に行くことになり、帰りのことを考えて車は三台に分乗。来る時は紫月(しづき)の運転だったが、今日は鐘崎(かねさき)がハンドルを握って紫月(しづき)は助手席へ。(ジォウ)(ひょう)は行き同様に後部座席で仲良く肩を並べる。後続車には父親たちが乗って鐘崎(かねさき)邸を目指した。 「(りょう)ン家は川崎だっけ?」 「ああ。都内から川一本渡ってすぐのところだ」  ナビは必要ねえぜと言って笑う。 「紫月(しづき)さんのご実家に続いて鐘崎(かねさき)さんのお宅へも行けるなんて!」  (ひょう)は恐縮しつつも頬を紅潮させて喜んでいた。(ジォウ)にとっては行き慣れた場所に違いないが、それでも数ヶ月ぶりらしい。天気も朝から上々で、楽しい一日となりそうな予感に車中は賑やかな笑顔であふれるのだった。

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