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川崎、鐘崎 邸――。
そこは見るからに厳かな佇まいの純和風のお邸だった。重厚な瓦屋根の乗った門を潜ると警備員が常駐する小さな建物があって、その奥には更なるもう一つの門が現れた。そこを通り過ぎてやっとのことで住宅と思われる玄関が見えて来たものの、その外観はまるで老舗の旅館と見まごうような立派な構えだ。
大きな庇屋根のある玄関口で車を降りると、数人の精悍な顔つきをした男たちが出迎えては腰を九十度に折りながら「お帰りなさいやし!」という野太い声が揃う。その歓迎に、冰 などは目を白黒とさせてしまっていた。鐘崎 の家は極道だと聞いていたが、まさに映画で観る以上の緊張感に全身が身震いを起こしそうだ。そんな冰 の様子に気付いたのか、周 がクスッと笑みながらもまるで護るように肩を抱き寄せた。
「そう畏ることはねえ。見た目は強面の組員さんたちだが、皆、気の置けない男たちばかりだぞ」
「は、はい……!」
冰 は行く先々で目に入る組員たちに深々とお辞儀を繰り返しながら歩く。彼ら組員の方でも周 のことはよくよく知った既知の間柄だ。「周焔 様、お久ししゅうございやす!」とか「ようこそお越しくださいました、龍首 」などと言っては腰を折る。それに対して「ああ、邪魔するぜ」と軽い会釈と笑みで応える周 の腕に寄り添いながら、今にも『ふぁあ……』と緊張の溜め息がもれそうな冰 だった。
通されたのは広大な日本庭園のような中庭が見渡せる応接室。その更に奥には鐘崎 専用の若頭書斎と組長室があるようだ。まず、一般の客人がここまで案内されることはおおよそ滅多にはないことである。それこそ周 やその家族である龍首 関係者や、他は台湾マフィアの楊 ファミリーくらいである。まあ、飛燕 については組員たちにも馴染みだったようだが、息子の紫月 と冰 を目にするのは初めてのことだった。
『若 のモデル仲間さんだそうですが、なるほど――えらい男前揃いですな』
『手前、雑誌で見たことありやす!』
などといった声がチラホラと聞こえてくる。応接室では組番頭の東堂源次郎 自らがもてなしの茶菓子とお茶を運んで来てくれた。紫月 も冰 もこの源次郎 とは先日の香港の件で顔を合わせていたので、知った顔にホッと安堵感を覚えるのだった。
その後、皆で茶を楽しみ、鐘崎 によって地下の稽古場へ案内されることとなった。もっとも、彼にとっては茶よりも何よりもとにかく紫月 に稽古場を見てもらいたくてウズウズソワソワとしていたようだ。まるでガタイのいい忠犬が主人を引っ張っるごとく、逸ったような顔つきで足早になっている友の姿に、周 などはやれやれと微笑ましい思いで見つめるのだった。
「どうだ、紫月 ――。見覚えあるか?」
ソワソワとした表情で鐘崎 が訊く。まるで『うん! ここだ』と言ってくれるのを今か今かと待っている素振りだ。
紫月 はヒョイと床へと腰を屈める。子供目線になって当時の記憶を遡る為だ。
「うん! そうそう、ここだよ! 間違いない。あの天窓の位置といい道場の広さといい――うん、ガキん頃に見たのはここだわ!」
その言葉に鐘崎 は高揚したように瞳を輝かせた。
「そうか! そうか――やっぱりここに来たことがあったんだな」
感極まる表情で、今にも躍り出しそうな勢いでいる。そんな様子にも周 は思わず綻んでしまう視線を隠し切れずにニヤニヤとしてしまうのだった。
「ほう? なるほどな。てめえらが昨夜話してたのはこのことだったってわけか」
つまりは寝たふりをして、二人がヒソヒソと話し込んでいるのを聞いていたということだ。
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