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「てめ……! 盗み聞きかよ」
鐘崎 は慌てていたが、そもそもこの周 が隣合わせの布団でゴソゴソやっている気配に気付かないまま寝入ってしまうわけもない。その直前には確かに眠っていたとしても、声や物音を感じた段階で熟睡し続けているはずがないからだ。鐘崎 にとってもまた、それは同じことだ。裏の世界で生まれ育った彼らは、それこそ雛の摺り込みのようにしていつ何時どんな危険に遭遇するか分からないということからして、例え睡眠中であってもわずかな音や気配に対しては自然と身を守るべく意識が反応するように訓練されているわけだ。
当然鐘崎 には、この周 や自身の父親の僚一 が昨夜の会話を聞いていただろうことも折り込み済みなわけだが、とかく周 に対しては紫月 に寄せる恋情を知られているので何となくバツが悪い気持ちが少なからずなのだ。思わず染まってしまった頬の熱を隠さんとアタフタ、そんな鐘崎 の内心を知る由もない紫月 当人は『やっぱり記憶は確かだった』と感激の面持ちでいる。
「遼 ! なあ遼 。ちょっとそこに立ってみて!」
幼い頃に自分が見た″少し歳上の兄ちゃん″が稽古をしていた位置を指さす。
「この辺でいいか?」
鐘崎 も嬉しそうに言われた通りの位置へと移動。
「うん、その辺だ! そのまましゃがんでみてくれ」
紫月 は自身もまた床へとしゃがみ込んでは当時の記憶を辿る。稽古場中央の床でしゃがむ鐘崎 の頭上を天窓からの陽光が照らし出す。
「間違いない! そうそう、これだわ! 俺がガキん頃に見たまんま!」
まるで当時の光景がそっくり再現されたと言っては嬉しそうにはしゃぐ。
「そうか――。良かった。やっぱりお前が見た兄ちゃんってのは俺だったということか!」
感激もひとしお、喜び合う二人の様子を不思議そうに眺めながらも、
「焔 さん、もしかして鐘崎 さんと紫月 さんは幼い頃に会ったことがあるんですか?」
すごい縁ですねと言って冰 もまた嬉しそうに微笑んだ。
「どうもそのようだな。俺たちはよくよく縁があるってことだ」
「そうですね! 何だか嬉しいです」
自然と腕に寄り添うように携えてくる冰 の手を感じた周 もまた、鐘崎 同様幸せそうな笑みで隣に立つ華奢な相方をやさしげに見つめたのだった。
そんな折だ。頭上の組事務所辺りから何だか騒がしい声が聞こえてきて、一同は何事かと互いを見合った。どうやら若い組員が怪我を負ったようで、男たちが大声で『大丈夫か』と騒いでいるようだった。稽古場を後にして駆け付ければ、買い物の最中に駅前で小競り合いに巻き込まれたらしく、組員の一人が肩の関節を外してしまったとのことだった。鐘崎 らに気付いた若い衆が慌てた素振りで助けを求めてきた。
「若 ! お帰りになってらしたんですね!」
ちょうど良かったと言って経緯を説明してよこした。それによると、駅前を通り掛かった際に老人の懐から財布を擦った現場を目撃して犯人を差し押さえたところ、暴れられた拍子に肩の関節を外してしまったというのだ。
「財布を擦ったのは繁華街を根城にして小悪いことばかり働いていやがるガキ連中でして。ご老体の懐 を狙うなんざ不届きなヤツらだと――捕まえたまでは良かったんですが、そいつらと一悶着ありまして」
どうやら犯人は不良少年のグループだったらしい。彼らが逃げる際に老人を突き飛ばそうとしたのを庇った組員が、打ち所が悪くて怪我を負ってしまったとのことだった。
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