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「あー、それな。実は俺と遼 ――じゃなくて若 さんの業務上の設定っつか、相方を組んだ時からのコンセプトなんですよ」
「設定……っスか? それじゃ、姐 さんはうちの若 のことを嫌ってるわけじゃねえってことスか?」
「嫌ってるだなんて! 滅相もねえですよ。遼 ――若 さんにはホント良くしてもらってるし、仕事を離れればめちゃくちゃ仲睦まじくやってるよ! 今日だってここのご実家へも呼んでもらえてさ、有り難い思いでいっぱいさ」
ガッツポーズと共に爽やかな笑顔で言い切った紫月 に、若い衆らはホッとしたように安堵の表情を見せた。
「なんだ、そうだったんスか! だったら良かった。そうですか、仕事上の設定っスか」
「そうそう。けど、アレだね。皆さんから見てもそう感じるってことは――俺たちの演技力も満更じゃねえって証拠だよね」
二人のカップリングモデルとしてのコンセプトは、鐘崎 が熱を上げるものの紫月 の方ではさして興味を示さないといった『片想い系』だ。世間の目にも鐘崎 に対して冷たいというふうに見えているならば、コンセプトから外れていないということになる。
「そっかぁ、それ聞けて安心したよ。俺、地がおっちょこちょいだからさ。仕事の上では極力クールに振る舞えって事務所のオーナーにも口酸っぱく言われててな。だから今、皆さんからの印象を聞けて良かったですよ。ちゃんとコンセプトから外れてねえって知れたから」
そう言って紫月 はまたも爽やかに笑った。若い衆らも理由を聞けて安心したようだ。その上、素のままの紫月 は見ての通りざっくばらんで人懐こい性質だ。しかも怪我を負った組員の肩を瞬く間に治してくれた魔法のような腕前――とくれば、これはもう恩人且つ尊敬に値する人物といえる。若頭の相方が良い人で良かったと言っては、安堵に湧いたのだった。
それからは皆が口々に『姐 さん』と連呼しての大盛り上がり――。若 がお世話になってます! とか、手前の名前は何々ですとかといった自己紹介合戦が始まった。これではまるで鐘崎 が生涯の伴侶を娶ったかのような騒ぎようだ。当の鐘崎 本人は「あちゃー」といったように額を手で押さえながらも特には否定せずにいる。周 などは若い衆と一緒になってニヤニヤと瞳をかまぼこ型にして喜んでいる。
「おい、カネ。いい姐 さんをもらって良かったな!」
肘で友を突っつきながらも小声で耳打ちする。その傍らでは紫月 が若い衆らとすっかり打ち解けていた。
「あー、どうも。遼 ――いや、若 さんにはこっちこそ世話になって……。皆さんにもこうしてあったかく接してもらえて嬉しいっス!」
彼らの勢いにタジタジながらも、『姐 さん』コールに特には否定するでもなく頭を掻いては気恥ずかしげに笑顔を見せていた。
とんだハプニングであったが思わぬきっかけで組の若い衆たちとも和気藹々で話が盛り上がり、一行は鐘崎 組を後にした。帰りの車中では皆に囃し立てられたことを鐘崎 が謝罪していた。
「すまなかったな紫月 ……。ヤツら散々っぱら勝手なことをぬかしちまって」
姐 さん、姐 さんと連呼されたことを気に掛けての言葉だ。
「いやぁ、俺ン方こそ皆さんに歓迎してもらえて恐縮だよ。極道の組の若い衆っていったらさ、もっと取っ付きにくいんかなって思ってたけど、皆んな気のいい兄さんたちで楽しかったわ!」
「そうか。それなら良かった」
そもそも、組員たちとて誰に対しても気のいい連中というわけではない。実のところはあんなふうに懐っこく打ち解けるのが稀といった具合なのだ。相手が朗らかな紫月 だったからこそ皆もああして懐いたのだと思える。鐘崎 は特には言葉にしなかったものの、自身の家族身内も同然の彼らが初対面の紫月 とあのように打ち解けてくれたことを心から嬉しく思っていた。何よりも『姐 さん』という言われ方に対してこの紫月 が嫌な素振りはもちろんのこと否定もせずにいてくれたことが信じられないほどに嬉しい。
いつの日か――カップリングの相方を離れた現実の人生に於いてもそんな間柄になれたらどんなにいいか――夢膨らむ想像に胸躍る思いをとめられない鐘崎 であった。
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