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「あなた、今回は大ボスの一人娘の役よね。正直言って男性のあなたがわざわざ女装してまで娘の役を()るっていうのはどう思われているのかしら」 「……はい、あの……」  (ひょう)には何を言われているのかすぐには見当もつかず、返事にも戸惑うばかりだ。構わずに白蘭(バイラン)は続けた。 「私は準主役のディーラー役だけど、どちらかといったらあなたがディーラーを()った方が似合うんじゃないかしら。ディーラー役もイェンさんとの絡みシーンは多いし、準主役といえば主役の次に重要な役どころでしょう? あなたから役を交代したいってディレクターさんにお願いしてみる気はないかしら」 「は……はぁ、あの」  つまり、この女の言い分は主役を代わるように(ひょう)の口から企画担当者に申し出ろということのようだ。おそらくは男であるにもかかわらず大ボスの一人娘役、イコール、イェン演じるダスカの常連客の恋人役に抜擢されたことが気に入らないのだろう。一種の妬みといえる。  配された役柄を勝手に交代させて欲しいなど、とてもじゃないが(ひょう)自身の口から言えるようなことではない。とはいえ、(ひょう)は以前にもモデル仲間の道ノ瀬由羅(みちのせ ゆら)によって誹謗中傷を受けた挙句、殺し屋に売り飛ばされそうになった経験がある。不用意に断れば、またあの時のような事態に発展しないとも限らない。自分自身が被害に遭うだけならともかく、仮に拉致のような大事に発展すれば(ジォウ)鐘崎(かねさき)らの手を煩わせてしまうことにもなり兼ねない。迂闊な返事は躊躇われるところだ。 「あの……そういったことは僕の一存で決めてしまっていいとも思えませんので……事務所のオーナーやイェンさんにも相談させていただけたらと思うのですが」 「もっともなことを言わないでちょうだい。私だって一旦決まった役を交代させてくれだなんて、上の人に言いづらいのは承知だわ。だからあなた自身から役を降りたいって言って欲しいの。あなた、まだデビューして間もない新人なんでしょう? 私も新人の部類だけど、あなたより二年もキャリアを積んでる先輩よ? あなたの口から私と交代すべきだって言ってくれれば――ディレクターさんたちだって考えてくださるはずよ」  だからお願い、ダメ元でも構わないから言うだけで言ってみてくれないかしらと白蘭(バイラン)は迫った。 「はぁ、おっしゃることはもっともです。僕はまだ新人で……男性なのに娘の役を仰せつかって……分不相応だという自覚もございます。ですが……その……やはり僕の一存では」  ほとほと困り掛けた――その時だった。 「その辺にしてくれねえか」  少々厳しい声音が二人の後方から響いた。そこには無表情の中にも圧を纏った(ジォウ)が立っていた。 「(イェン)さん!」  ホッとしたような(ひょう)の声に一瞬やわらかな笑みを見せたものの、すぐに白蘭(バイラン)という女から庇うように(ジォウ)(ひょう)を自身の背中に隠した。

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