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97 悪意に満ちた攻撃
それからひと月の後、いよいよ公演の幕が上がる日がやってきた。冰 と白蘭 は昼の部、夜の部で配役を交代することとなり、特には嫌がらせのような事案もなく無事に開幕を迎えた。前評判も高かった舞台は連日の客入りも盛況で、ネット上ではチケットの横流しなども見られるほどに人気と注目を博していた。と同時に例のコミュニティ板はむろんのこと、その他SNS等でも舞台の感想が飛び交うこととなった。
冰 の娘役は女装とは思えない可憐さと美しさが大絶賛を浴びることとなり、レイ演じる大ボスと恋人との狭間に於いての苦悩がよく表現されていて涙を誘われたというような感想が大半を占めていた。更に交代で演じるディーラー役の方ではそれこそ冰 の十八番 といえる立ち居振る舞いが主役である娘役を上回るほどの絶賛の嵐となったのは言うまでもない。当の冰 はこれも黄 のじいちゃんの教えのお陰だと笑顔を見せていて、そんな彼の演技を讃え労う周 の姿にも好意的な感想が多く寄せられた。
かくいう周 自身も公演毎に代わる恋人役が冰 と白蘭 という中で、それぞれの体格に合わせたダンスのサポートなどが巧妙でいて、どちらに対しても深い愛情が滲み出ていて見事だという意見があふれた。
問題は白蘭 の方である。
ディーラー役ではもちろんのこと冰 に叶うはずもなく、唯一分がいい娘役にしても女装の冰 よりも評判は格段に劣る結果となった。ネット上でも辛辣と思える書き込みが相次ぎ、彼女のような実力の伴わない者になぜ主役を演 らせたのかという話題が蔓延。当然それらを目にした白蘭 が憤ったのは言うまでもなかった。とはいえ、いくら彼女が落ち込もうが憤慨しようが、その矛先は彼女自身の我が侭であって、快く役を譲ってくれた冰 に向けられるべきものでもない。ダブルキャストとなった裏事情を知る周 やレイを始めとする関係者は皆そう思っていた。
ところが――だ。
公演も終盤に差し掛かったある日のことだった。昼の部を白蘭 主役で終え、夜の部では冰 が主役の娘役を演じようとしていた楽屋でそれは起こった。
メイクを済ませ、衣装を着替え終えて開演まであと二十分足らず――靴に足を入れた冰 が、
「痛……ッ」
咄嗟に足を引っ込めて顔を歪めたのをメイク担当の倫周 が気付いてすぐに駆け寄った。
「冰 君? どうしたの?」
急いで靴から足を出した冰 の親指からは真っ赤な鮮血が溢れ出てストッキングを血赤に染めていた。
「なッ……!? どうして」
倫周 はレイの息子だ。即座に状況を把握した彼は、急いで靴の中を確かめた。すると、あろうことかカッターの刃が靴先の親指に当たる位置に刺さっているではないか――。倫周 は急いでレイに報告。すぐに医師の鄧浩 が駆け付け、反対側の袖から登場する予定だった周 も事態を聞くや否や血相を変えて駆け付けて来た。
「冰 ――! 冰 ! 大丈夫か!?」
鄧浩 が処置をする傍らで周 が冰 を抱き包む。
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