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99 二人でひとつ
「レイさん、大丈夫です。僕が出ます。予定通り幕を上げてください」
「出るってお前さん……傷は足の親指だぞ。いくらお前さんの実力でも痛みを抑えての演技は厳しいといえる」
だが、冰 は大丈夫ですと言って笑顔を見せた。
「鄧 先生、舞台の間だけでも痛みを抑えられるよう強めの麻酔か、あるいは痛み止めをいただけませんか?」
「――うむ、痛み止めが無いわけではない。ですが、縫合直後です。焔老板 とのデュエットダンスはそれなりに激しい動きですし、仮に強い麻酔を打てば足先のみならず少なくとも膝下くらいまでの感覚を失うことになる。下手をすれば舞台の上で転ぶような事態にもなりかねません」
とはいえ、冰 が出なければ公演中止、もしくは代役を立てたとて騒ぎになることは明らかだ。
「大丈夫です。縫合が開いて靴に血が染みるなんていうのは困りますが、感覚が無いくらいでしたら焔 さんと一緒にカバーできます」
冰 はそう言って周 を見上げた。
大丈夫。あなたが側に居てくれるのだから僕はがんばれます!
まるでそう言われているようで、周 は胸が熱くなるのをとめられずにいた。
「分かった。ダンスシーンのサポートは任せろ」
例えお前が転びそうになってもこの俺がしっかりと支えてやろう。全身全霊をかけて守ってやる。ずっと側にいる。
「冰 ――。俺たちは――二人でひとつだ」
じっと見つめ合い、真剣な視線が互いを支え合う。
「はい。はい、焔 さん! お願いします!」
そんな二人を見ていたレイが更なる提案を口にした。
「よし、ではこうしよう。幸い俺は冰 の父親役だ。娘が駆け落ちをしようとしていることに気付いた俺は、それを阻止しようとして娘の脚に怪我を負わせる――というシーンを加えよう」
もともとの台本にそんな設定は無いのだが、アドリブということで追加すれば、この公演に複数回通ってくれている観客にとっても新鮮にも映るだろう。父親からの叱責で脚を痛めたという経緯があれば、ぎこちない動きも自然に見せられるというものだ。
「これなら多少足を庇ったり、仮に転んだりしても観客はストーリー上の設定と思うだろう。デュエットダンスは確かに激しい動きも入ってくるが、その点は焔 がカバーしてやってくれ」
さすがはレイだ。この土壇場を逆手に取って新たな台本を組み込むとは大した機転である。周 も冰 も有り難くその申し出を受け入れたのだった。
「ありがとうございますレイさん! 焔 さんにもご心配をお掛けしてすみませんが、どうぞよろしくお願いいたします!」
「ん! 何も心配することはねえ。何があっても俺とレイさんが側にいる。安心して冰 の思う通りに演じればいい」
「はい、焔 さん!」
「では行こうか」
こうして二人はまさにひとつとなるべく、観客らが待つスポットの中へと踏み出して行ったのだった。
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