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その舞台上では怪我を気付かせることなく冰 が奮闘していた。レイの案で台本にはない″娘の脚に怪我を負わせる″という展開が演じられている真っ最中だった。客席からはいつもと違う流れに期待を寄せているような雰囲気が見て取れる。
「問題はこの後のデュエットダンスだな……」
焔 、冰 、がんばれよ! 応援しているぜ――鐘崎 も紫月 も祈るように舞台の袖で拳を握り締める。
そんな思いが届くのか、舞台上の二人は今まさにひとつとなるべく全身全霊を以て演技に集中するのだった。
(鄧 先生の薬のお陰で痛みは全く感じられない――)
だが、確かに膝から下の感覚はまるで無かった。ともすれば太腿の辺りまでが自分のものではないような気にすらさせられる。頭では振り付け通りに動いているつもりでも、振りが早くなるごとにどうやっても足がもつれそうだ。
(まずい……転ぶ……!)
そう思った時だった。つんのめる直前でがっしりとした周 の腕に腰元を掴まれて、そのまま懐の中へと抱き包まれた。
客席に背を向ける周 の懐にすっぽりと隠れる形で力強い抱擁に包まれたまま、耳元で彼がささやく――。
「冰 、少し振りを変える。このままお前を天高く抱き上げて、そこでしばらくの間動きをとめる。お前は俺を見下ろしながら両手で俺の頬に手を伸ばすんだ。愛しいという気持ちと、親父さんを捨てて恋人と人生を歩むことへの申し訳ないという若い娘の揺れ動く気持ちを表現するんだ」
首元に頬を擦り付け、客席にはそれ自体が振り付けなのだと思わせつつも、『できるか?』と小声で訊く。
「焔 さん……ですがそれじゃ焔 さんの腕に相当の負担が……」
ある程度距離を取ったところから駆け込むようにして抱え上げられるのとは違い、初動もなしに天高く持ち上げたまましばし動作を留め置くのは、いかに体格のいい周 でもかなりの負担を強いられるはずだ。
「案ずるな。愛するお前を抱え上げることくらい俺にとっては負担などあるわけもない。むしろずっとそうしていてえくらいだ」
例えそれが相方として劇中の恋人に向ける言葉であったとしても、冰 にとっては胸が熱くなってしまうようなひと言だ。
「焔 さん……」
耳元に口付けるようなゆっくりとした振りは、観客側からはまるで愛撫をするかのように映るのだろう。場内の所々から『ほう……っ』といううっとりとした溜め息が上がり始める。
「よし、冰 。体を一回転させた後に抱き上げる。俺が今言ったように、恋人への目一杯愛しい想いと親父さんへの『勝手をしてごめんね、赦してね』という気持ちを表すんだ」
「……焔 さん。はい……はい! 分かりました。お願いします!」
「よし! ではいくぞ」
周 は小さくチュッと頬へ口付ける動作を見せると、冰 の腰をクルリと回転させて勢いよく空へと抱き上げた。
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