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 (ひょう)は言われた通りに恋人を見下ろしながらゆっくりと両手を伸ばす。自らを抱き上げる彼の頬を包み込みながら万感の思いを込めた。  パパ、ごめんなさい。これまで大切に育ててくれたご恩に報いることもできないまま、勝手をしてあなたの下を去るこんな娘を赦してください。  でも私、そんなパパに背いてもこの人と生きたいの――!  後悔していないわけじゃない。できることならパパに認めてもらって、祝福してもらって、彼ともパパともずっと一緒にいたい。ずーっとずーっと、パパの側で、いつでもその笑顔が見られるところで彼と一緒に倖せになる姿を見守ってもらいたい。  でもごめんなさい。私はこの人と一緒に行きます。  小さい頃から持てる愛情のすべてをかけて私を育しんでくれたパパに背いて生きる我が侭を――赦してね。  私、この人と――倖せになります。  だからパパも……どうか元気でいてください!  そんな思いが胸を激しく揺さぶり、(ひょう)の双眸からはポロポロと大粒の涙がこぼれては、抱き上げる(ジォウ)の頬をも濡らした。  二人が熱い演技に没頭する中、彼らの立ち位置にはちょうど奈落から上げ下げできる装置が見て取れる。舞台袖でそれを見ていたレイがひと言、逸ったように告げた。 「(リー)! ヤツらのスポットを徐々に絞って奈落へステージを下げられるか?」 「――? はい、それ自体は可能です」  ですが、本来ならばこの後はダンスを終えた二人がステージ上で客席に向かって一礼をする流れになっています――(リー)の顔には聞かずともそこをどうするのだと書いてある。 「後のことは俺が引き受ける! (イェン)が抱え上げている(ひょう)を下ろす直前で装置を動かしてくれ!」 「――承知しました。すぐに!」 「では頼んだ。代わりに俺にスポットをくれ!」  そう言うと、急ぎ袖裏の階段を駆け上がってはステージへと歩み出ていった。  舞台中央では(ジォウ)がゆっくりと(ひょう)を下ろし、万感込めて抱き合う姿――。  レイは急遽マントを羽織った出立ちで舞台端に設えられた高台に姿を現すと、まるで二人を見送るかのように感慨深く瞳を細めた。片手を上げ、愛しい娘を引き留めるかのように手を伸ばし、その姿は小高い丘の上から去って行く恋人たちを見送るかのようだ。レイ演じる父親には既にその手は娘に届かないことを解っているといった諦めの表情が観る者の切なさを誘う。  この俺から娘を奪っていく男を――正直なところ赦したくはない。赦せるものでもない。  だがしかし、それほどまでに二人が想い合っているというのなら――彼に娘を託すことを良しとしよう。  だから必ず、必ず幸せにしてやってくれ。  俺は――例え互いの顔が見えなくとも、どんなに遠く離れて暮らそうとも、お前たちの倖せを願っている。心から――そう願っているぞ。  切なげに細められた父親の頬に一筋の涙が伝わった。  それと同時に舞台中央に立つ二人は徐々に奈落へと姿を消し、スポットが絞られて小さくなっていく。代わりに娘の幸せを心から願う父親の姿をマックスに明るいスポットが照らし出した。(リー)の采配で急遽バックミュージックも壮大な曲へと切り替えられ、客席からは感動の嵐の如く拍手喝采が寄せられたのだった。

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