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 割れんばかりの歓声と興奮の渦の中、(ひょう)が主役を務める夜の部の幕が無事に下ろされた。この後、いつもと違う展開のステージだったにもかかわらず、客席からはスタンディングオベーションが湧き上がり、これまでは例になかったアンコールの幕を上げる事態ともなってしまった。  (ジォウ)(ひょう)をセンターに置き、出演者たちが揃って舞台上に並ぶと、客席からは更なる興奮の渦が巻き上がった。一同が揃って深々とお辞儀をし、そんな中で(ジォウ)(ひょう)を抱き寄せてはその頬にチュッと軽い口付けを落とすと、客席は更に湧いた。と同時に、二人を讃えるようにレイがその脇で戯けて見せる。劇中では二人の仲を反対していた父親役がまるで冷やかすようにしながらも仲を取り持ち、認めるような仕草を見せたことで、観客たちの心も浮き立ち、思い掛けないサービスショットに大喝采は止まず、公演が始まって以来の興奮の渦に包まれる中で幕を下ろしたのだった。  早くも次の日の未明からネット上では昨夜の舞台を称賛する書き込みであふれていった。 「(イェン)さん、レイさん、(デェン)先生、皆さん、本当にありがとうございました! 皆さんのお陰でお客様にも喜んでいただける舞台になりました」  自分が注意を怠ったせいでこんな事態を招いたことを深く反省していると言って(ひょう)は皆に頭を下げた。 「いやぁ、しかしさすがは(ひょう)君だよ! あの場面でポロポロ大粒の涙を自然とこぼしちゃう辺りは感動ものだったよな!」  紫月(しづき)が絶賛している。 「それにレイさんの見送りシーンにも本当に助けられた」  (ジォウ)もまた、咄嗟のアドリブで機転を利かせてくれたことへの礼を口にする。 「ホントだよねぇ! レイちゃんまで泣き出すんだもの。さすがパパさん役だね」  よくあの短時間で本物の涙まで流せたものだと、ヘアメイク担当でレイの一人息子である倫周(りんしゅう)にもそう褒められて、レイは満足げだ。 「そりゃお前! この俺を誰だと思ってる」  当然の結果だと胸を張るレイは悪戯な少年のようだ。少年といえば、幾つになっても″永遠の二十歳(はたち)″を自負するそんなレイだが、彼は息子の倫周(りんしゅう)にも自分のことを『お父さん』とは呼ばせずに、名前に『ちゃん』付けの『レイちゃん』と呼ばせているのは業界内でも有名な話である。 「それはそうと――(ひょう)君の靴にあんなことをしたのは誰だったんだろうね」  怪我を負った時、一等最初にそれに気が付き、側でその一部始終を見ていた倫周(りんしゅう)は、やはり犯人のことが気に掛かってならないようだ。 「それについては(リゥ)が調べていますが――正直なところ舞台袖には出入りも多く、監視カメラにもこれと確証できる手掛かりが見つけられずにいます」  それも致し方ないといえばそうだ。本番中はもちろんのこと、昼の部と夜の部の間ではダブルキャストのルーム移動やプレスをし直した衣装の準備などで人の出入りは頻繁といえる。ましてや小さな切っ先を持ち込んだ証拠など監視カメラに映っている方が無理というものだ。 「可能性が高いのは白蘭(バイラン)というモデルにも思えるが、由羅(ゆら)のような例もあるから一概に彼女とは言い切れない」  はっきりと下手人を確定するのは望み薄だろうと言うレイに、(ジォウ)らも同意見のようだった。 「まあ、千秋楽までは残りわずかだ。性懲りもなく衣装に泥を掛けられたりということもあるかも知れんからな。とりあえずのところフィッティングルーム周辺には特に気を配って目を光らせるしかあるまい」  今回の件が白蘭(バイラン)によるものではなく、まったく別の者の思惑によって成されたことも考えられる。警備を強化するしか手立てはないというのも事実であった。  だが、標的が(ひょう)だというのは誰の目にも明らかだ。千秋楽まではあと数日。皆一丸となって(ひょう)の周辺の警備を強化しつつ気を引き締めていたにもかかわらず、その″(ひょう)が標的″だということにとらわれすぎて、思いもよらない別の災難が降り掛かろうとは知る由もなかったのである。

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