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 すぐに火災を感知してホールの頭上からは水があふれ出たものの、ガソリンから引火した火の手は所々で爆発のような音を立てながら鎮まる気配もない。通路近くの席にいた者たちは炎の煽りを食らって火傷を負い、数ヶ所ある出入り口の扉は逃げ惑う人々で大混乱をきたす。将棋倒しで怪我を負う者、我先に逃げんと客同士で掴み合いや殴り合いまで始まって、もはや手のつけようがない状況であった。  そんな中、何を置いても観客たちを逃がそうとレイや飛燕(ひえん)らは各所に散って逃げ遅れそうになっている人々の救済に当たった。僚一(りょういち)もまた、(ひょう)を無事に炎から守り切ったところで彼には舞台袖にいるスタッフらと共にすぐに外へ避難するように命じると、飛燕(ひえん)らを手伝うべくホール内へと駆け降りて行った。 ((イェン)さん――!)  (ひょう)の脳裏にもまずは(ジォウ)の安否が浮かぶ。  だが、今の時間ならば彼はデュエットダンスの為に奈落へと向かっているはず――。今自分がいるこの舞台袖にもまだ火が回っていないことから考えれば、おそらく(ジォウ)は無事でいるだろう。  僚一(りょういち)に言われた通り、まずは舞台袖で作業をしていた各事務所のスタッフたちを安全に逃すべく誘導に尽力。一人残らず避難させたのを確認してからホールの状況をも見に行こうと立ち上がった。まだ観客たちが避難できていない場合、その誘導を手助けする為だ。  火の手は激しく、黒煙の勢いに肺も苦しくなってくる。チラリと覗き見たホールの方では殆どの観客たちが無事に外へと逃げられたようで、人影はまばら。レイや鐘崎(かねさき)紫月(しづき)らが出入り口の扉付近で残りわずかとなった人々を外へと誘っている姿が視界に飛び込んで来た。(ジォウ)の姿こそ見当たらなかったものの、鐘崎らと合流して避難誘導に当たっているのだろうと思われた。 (良かった……皆んな無事に逃げられたようだ)  今一度舞台袖に逃げ遅れたスタッフらがいないかどうかを確認した後、自らも外へ出ようと思った、そんな矢先だった。どこから現れたのか、背後から忍び寄って来た誰かに突如怪我をしている方の足先を踏み付けられて転倒――。開いた傷口の痛みに少しの間立ち上がれずにいたところ、黒煙の中で見たその相手に絶句させられる羽目となった。 「あ……なた、どうしてここに……。ここは危険です! 早く逃げないと……」  自分の足を踏み付けられたというのに、(ひょう)はその相手にさえも逃げるよう促した。ところがそんな態度にこそ虫唾が走るといったふうにして、その者は恐ろしい形相で(ひょう)に平手打ちを食らわせた。 「……ったく! 運のいいったらない! まさか観客がアンタを助けるとはね。あのオヤジ、どこのどいつか知らないけど、ホンッと余計なことをしてくれて」  本来ならば既に炎に包まれていたはずなのに——と、舌打ちを鳴らす。 「そ、そんなことよりまずはここを出ましょう……。おちおちしていたら危険です」 「出ましょう? つまり助かりたいってわけ? ふん! 図々しいにもほどがある——!」  吐き捨てるようにそう言って、もう一度張り手が飛んできた。  驚愕ながらも(ひょう)は気を取り直すと、とにかくは避難をとうながした。 「ぼ、僕にお話があるのでしたら後程きちんとうかがいます! とにかく……今は一刻も早くここを出ないとあなたも危険なのですよ!」  懸命に説得すれど、その態度にこそ腹が立つといったように物凄い形相で目尻を吊り上げた。

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