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「ふざけんじゃないわよ! いい子ぶって……! アンタのような男に心底腹が立つのよ!」
聞き覚えのある声、なんとそれは白蘭 というモデルだった。
その手には小さめのポリタンクのような代物が見て取れる。大きさこそ違うが、先程頭上から落ちて来た物と見た目は似ている。
「白 ……蘭 さん……まさかこの騒ぎはあなたが……?」
「だったら何ッ!? 説教でもしようっての!?」
女はもう一発冰 に張り手を見舞うと、また一度思い切り足の親指を目掛けて踏み付けた。
「っあああー……!」
さすがに激痛が走り、冰 は再びその場へと崩れ落ちた。
「アンタのせいでアタシがどれだけの辛酸を舐めさせられたと思うのッ!? アタシはね、あのイェンに憧れてモデルになったの! いつかは同じステージに立てる日が来るかも知れない、雑誌の対談でも一緒になれるかも知れないって思ってがんばってきたわ! それこそこの身体さえ方々の男たちに与えて……編集者やディレクターにも取り入ってきた! ようやく夢が叶って……あのイェンと一緒に仕事ができるところまで来たっていうのに……」
アンタっていうガキ一人のせいで夢は粉々に砕かれたわ――! 女は吐き捨てるように絶叫した。
「アンタたちは……アタシの望みを叶えてダブルキャストにしてやったとでも思ってるんでしょうけど……あのイェンは舞台を離れればアタシには目もくれなかった! 確かに……役の上ではやさしくしてくれたわよ。けど……稽古や舞台が終わればそのやさしい目はいつもアンタに向けられてた! 食事に誘っても断られた! それもやんわりした紳士面の笑顔でよ! 挙句にネットでは散々酷評されて……アタシは夢も評判も何もかもアンタたちに壊されたのよッ!」
「そんな……僕らは……」
「何もしてない――とでも言うつもりッ!? アタシは絶対に許さない。アンタも……アタシを蔑ろにしたあのイェンも……。アンタたちなんて一緒にくたばればいいッ!」
「白蘭 さん……。でしたらどうしてこんなことをなさったんです! 憎いのは僕とイェンさんなのでしょう? なのに関係のないお客様たちにまで巻き込んで……。幸い――このホールからは皆さん脱出できたようですが、お怪我や火傷を負われた方だっているはずですよ! どうしてこんなッ!」
さすがの冰 にも怒りが込み上げてくる。憎いというなら標的にされるのは自分と周 だけでいいはずだ。それなのにどうして観客たちまでを危険にさらしたのだと憤りを隠せない。踏み付けられた足からは傷が開き切って、ドクドクと血が靴にまで染み渡る。
「ふん! そういういい子ちゃんのところが心底腹立つのよ! 何が観客よ……あいつらは皆んなしてアンタを称賛した……。反対にアタシの悪口を書きまくった……。同罪でしょ? アンタも、アンタにしか心からの笑顔を向けないイェンも、そんなアンタたちを似合いのカップルだなんて称賛してる観客たちも……」
全員地獄へ落ちればいいのよ! そう言って女は笑った。
「さあ、そろそろお別れよ雪吹冰 。この炎の中でイェンが無事に生き延びられてたとしたら――アタシがあの人をもらってあげる。楽しみにしてなさい」
恐ろしい笑みと共に冰 は再び足先を踏み付けられ、そのまま放水によって収まりを見せ始めていたステージ中央へと引きずっていかれ、奈落へと突き落とされてしまったのだった。
「誰も助けになんか来ないわよ。っていうか、来たところでアンタは既にあの世だもの」
女は手にしていた容器の蓋を捻り開けると、奈落で倒れ込んでいる冰 を目掛けてそれを持ち上げた。
「これ、何か分かるわね? そう、ガソリンよ。化けて出たりしたら何度でも殺してあげるから」
おとなしく成仏しなさいよ――そう言って容器を傾けた。
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