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110 ナイトメア

 それから数日が経ち、皆の怪我も鄧浩(デェン ハァオ)らの献身的な治療によって徐々に回復へと向かっていた。  喉をはじめとした(ジォウ)の火傷も少しずつ癒え、事件から十日が過ぎる頃には声も出せるようになっていった。  誰もが軽い火傷や怪我を負ったものの、目に痛いほどの酷い痕が残らずに済みそうだとのことで、それも鄧浩(デェン ハァオ)ら医師たちが懸命の治療に当たってくれたお陰だった。  (ひょう)は親指の傷が更に深く開いた上に、奈落へと突き落とされた際に打撲を負ったものの、幸い骨折などの大怪我には至らずに済んだ。(ジォウ)に比べれば全身の怪我も軽く、それもこれも事態にいち早く気付いた鐘崎(かねさき)の父・僚一(りょういち)が一目散にステージ上へと駆け上がって守ってくれたことと、(ジォウ)が自分の身を犠牲にして降り注がれる液体から庇ってくれたお陰だ。むろんのこと鐘崎(かねさき)紫月(しづき)の援護の賜物でもある。  事件の日のことを思い出せば夜も眠れずにうなされることも多かったが、(ひょう)は皆に付ききりで看病を続けた。中でも一番の深手を負った(ジォウ)には、医師の鄧浩(デェン ハァオ)から安静の為に眠り続けられるようにと睡眠導入剤が投与され、(ひょう)はその側で寝る間もなく寄り添っては、頻繁にタオルを替えては絞り、また替えては絞って火傷の箇所を冷やし続けた。  そうして半月が経ったものの、世間では未だテレビが毎日のように事件のことを告げていた。それもひと月が過ぎる頃には報道も収まりを見せ、と同時に(ジォウ)らの怪我もほぼ完治へと向かっていた。  事件以来、気持ちが張り詰めていたせいもあってか、このひと月の間には特に変化が見られなかった(ひょう)の精神状態が不安定になり出したのはちょうどこの頃だった。  怪我も完治し、普段の生活に支障がなくなった(ジォウ)とは裏腹に、それまでは介抱で必死だった(ひょう)は毎夜の如く事件の悪夢にうなされるようになっていった。レイのギムナジウムでは(ジォウ)と同室の生活が続いていたが、元々寝室は別だ。(ジォウ)が睡眠導入剤で眠っている間は側に付ききりだったこともあってか、彼が目の前にいるという安堵感がどうにか(ひょう)を支えていたのだろうか、一人で(とこ)につけば不安が彼を苛むようになっていったのだ。  ウトウトと眠りに落ち、しばらくするとその悪夢は毎夜のように現れるようになった。  炎の中、女がポリタンクを傾けて自分を見下ろしている狂気の笑顔。  その直後に飛び込んで来て抱き締めてくれた(ジォウ)の姿。  そしてその背中にふり撒かれた恐ろしい液体を浴びせられる音――。  自らを抱き締める肩先から垣間見えたライターに灯された小さな火――それが落ちてくれば今自分を抱き締めているこの人が瞬時に業火に包まれる。 「う……ッああああああーーー! (イェン)さん! (イェン)さ――!」  手を伸ばし、女の放り込んだ小さな火を弾こうとすれども間に合わないという悪夢だ。

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