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「……あの時から僕は……きっと焔(イェン)さんのこと大好きになっていたんだと思う」 「――あの時?」  それはいつだ? そう訊くように頬を撫でられ、クイと顎先をつまんでは互いの視界に互いを映し出すように視線を合わされた。 「は……じめて会った日。カップリングに選んでいただいて初めて焔(イェン)さんに会った日……」  誰がなんと言おうが、この俺がしっかり守ってやっから、お前さんは安心して俺の懐ン中でヌクヌクしてりゃいいのさ! 「そう言ってくれたの。僕はすごく嬉しくて……すごくドキドキして、夢じゃないかって思ったんだ」  それからは毎日が現実じゃないんじゃないかっていうくらい幸せの連続だった。この人の側にいるとなんでこんなにドキドキするんだろうって思ってた。  あの日――出会った瞬間から僕はずっとずっとこのまま時が止まってしまえばいいと思うほどに。  一年経ってカップリングを解消するその日が永遠に来なければいいと思うようになって――毎日が、毎時間が、毎分毎秒が過ぎていってしまうことが怖いくらいに思ってた。  なんでそんなふうに思うんだろう、カップリングモデルなんていう光栄極まりない抜擢を与えてもらえて幸せなはずなのにって思ってた。  でも今なら分かる。僕は――焔(イェン)さんが好きだったんだね。尊敬する先輩だからというだけじゃなく、憧れという感情だけじゃなく、焔(イェン)さんに恋をしてしまっていたんだね。 「だから離れる日のことを考えたら寂しくて仕方なくなったんだ。時が止まって、ずっと焔さんと一緒にいられればいいのにって……思ってたんだ」  またひとたび、ホロリと涙をこぼしながら冰(ひょう)は笑んだ。 「――冰(ひょう)。それを言うなら俺の方だな」  ――キョトン。  え? というように涙で濡れた睫毛をパチクリとさせる。 「気が付いたのは俺の方が早かったと思うぞ。お前に惚れてしまった――という気持ちにな」 「……焔(イェン)さん」  云ってはいけない台詞だと思っていた。  何度も諦めようとした。  切なくて苦しくて、いつかこの想いが報われる日が来るなんてのは夢幻だと思ってもいた。 「そんな想いをカネにも相談してな。お前を家に連れてった時もヤツと一之宮(いちのみや)に協力してもらったりな。例え報われずとも少しでもお前と過ごしていたい、そんな気持ちを抑えられなかった」 「焔(イェン)さん……」  顎先に触れられていた指にクイと力が込められる。  細められた瞳が熱を帯び、ゆっくりと近付けられていく頬もまた熟れるほどに朱に染まる。  そのまま軽く、触れるか触れないかといえるほどに唇が重ね合わされた。 「焔(イェン)……さん」 「冰(ひょう)――覚えておけ。俺は焔(ほむら)だ。どんな業火であっても決して呑み込むことができねえ焔(ほむら)だ。だからもう嫌な夢は見るな。俺が側に居て、二度と不安になんざさせやしねえ」  だからもう、あの日のことは忘れてしまえ――! 「焔(イェン)さん……焔(イェン)さん……。はい、はい――! あなたさえ居てくれれば……僕は何も」  怖くない――!  ポロリとまたひとたび、一筋の涙が伝わったと同時に、深く唇を奪われた。  それは激しく、熱く、強引でもあって、だがとてつもなく甘くやさしくもあって。  まさに焔(ほむら)の如く勢いで包み込んでいく。  ああ、怖くない。  これが焔(ほむら)ならば、もうあの日の記憶も怖くない。  業火でさえも決して焦がすことのできない激しく熱い″焔(イェン)″というこの人と、どこまでもいつまでも共に生きて行く――!  周焔(ジォウ イェン)と雪吹冰(ふぶき ひょう)が揃って引退を表明したのは、次の年の春浅い日のことだった。

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