115 / 122

114

 ふと、(ジォウ)がつぶやいた。 「だがカネ――。俺と(ひょう)、それに一之宮(いちのみや)も遅かれ早かれ引退ってことになると――おめえさんはこの先どうするつもりでいるんだ」  今いるこの四人の中で(ジォウ)だけは鐘崎(かねさき)紫月(しづき)に惹かれていることを知っている。例の事件を機に(ひょう)との想いを通じ合わせることが叶った(ジォウ)だが、友の恋路の行方と、この後の身の振り方も気掛かりなのだ。  まあ、一之宮(いちのみや)道場が鐘崎(かねさき)組の真隣となれば、モデルの仕事を離れたとて頻繁に顔を合わせることになろうから、その点では心配ないと言える。鐘崎(かねさき)紫月(しづき)に対する想いは真剣のようだし、彼なりに慌てずゆっくりと絆を深めていこうと思っているのかも知れない。  できることならこの友の想いが叶い、幸せになって欲しい。  寡黙で男前で、あまりの見目の良さからともすれば愛想のない冷たい印象を抱かれるような彼だが、そんな見た目に反して実は至極思いやりがあってやさしい性質なのだ。案外晩熟なところもある男だから、自分に応援できることがあれば、これからも何かと節介を焼いてやりたいと思う(ジォウ)だった。  そんな(ジォウ)の思いを裏付けるべく、鐘崎(かねさき)から語られた今後の身の振り方が彼の人間性を物語っていた。 「そのことについては――ここしばらくの間、紫月(しづき)とも話し合ってきたんだが。俺も現役としては紫月(しづき)とのカップリング期間が終了すると同時に引退しようと思っている。その後は裏方に回ってもうしばらくここに残るつもりだ。俺たちがいっぺんにいなくなっちまったら、レイさんや倫周(りんしゅう)だって寂しくなっちまうだろうしな」  紫月(しづき)も同様で、モデルとしては今期を最後に引退すれど、道場が建ち上がるまでの間はこのままここに残るそうだ。とはいえ、年が明ければ建築も開始される予定だから、実質半年にも満たないほどでギムナジウムを去ることになるだろう。 「俺らのカップリング期間が終了したら、俺と(りょう)もモデルを引退しようって決めたんだ。今度は裏方に回って、後輩君たちの世話係ってわけじゃねえが、マネージメントの方で力になれればと思ってる」  もちろん、このまま鐘崎(かねさき)とのカップリングを続けさせてくれと言えば、レイは二つ返事で承諾してくれるだろう。だが、それではいつまで経っても後進たちが陽の目を見られない。引き際も大事ということだ。 「――そうか。お前らも引退とな」  (ジォウ)自身は、引退後に汐留の高層ビルにて商社を起業することを事務所に入る時からレイには打ち明けていた話だった。その伴侶として(ひょう)と共に本当の意味でのカップルとなり生きていくわけだ。  そして紫月(しづき)は実家へと戻り、これからは影の忍者一族としての本業を全うしていくことになる。  鐘崎(かねさき)とていずれは組に帰ることをレイならば重々承知だろうが、皆が揃って出て行ってしまうのではさすがに申し訳ない思いもある。(ジォウ)が起業すれば、(リー)(リゥ)、医師の鄧浩(デェン ハァオ)は当然自らの主人について彼らも事務所を去ることは折り込み済みだ。紫月(しづき)綾乃木(あやのぎ)にも同じことが言える。 「俺はしばしここに残って、つつがなくモデル事務所が運営できるよう後進を育てる手伝いをするつもりだ」  今現在、鐘崎(かねさき)の護衛役としてモデル業に投じてくれている組幹部の清水(しみず)(たちばな)と共に後継を育て、立つ鳥跡を濁さずの状態で組に帰ろうと思っている――そんな鐘崎(かねさき)に、(ジォウ)はもとより(ひょう)紫月(しづき)も感無量にさせられるのだった。

ともだちにシェアしよう!