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115 卒業
そうして年が明け、周 らの引退が発表されると、ファンたちの作ったコミュニティ板では惜しまれる声が相次いだものの、皆も例の事件の後ではそれも致し方ないと思ったようだ。実際、板の常連たちの中にはあの公演を観に来ていた人々も多く、誰もがあんな事件を起こした白蘭 には憤りを通り越して恨みにさえ思う気持ちの方が強かったようだ。
その白蘭 には一歩間違えば大勢の命が奪われていた可能性も充分にあったことで、極刑に近い沙汰が下されると思われる。最早テロともいうべく大事件に世間の評価は厳しい処断をとの声が多く上がった。
あの日の事件については誰もが気の晴れない嫌な思い出として記憶されていた中、周 らは少しでもファンの人々に明るい気持ちになってもらうべく、引退までの残り少ない日々を精力的に仕事をこなすことで詫びと恩返しができればと懸命に務めていた。G9のホームページ上では仲睦まじい対談動画や食べ歩きなどの楽しい企画を数多く載せ、観てくれた人々に極力明るくて穏やかな気持ちになってもらえるような配信を続けた。時には鐘崎 と紫月 、清水 や橘 も混じっての男同士の小旅行企画なども組み込まれ、笑顔あふれる記事や動画作りに精を出した。
時は流れ、桜前線の話題が聞かれるようになった頃、周 と冰 、そして鐘崎 と紫月 の四人はモデルとしての現役活動を卒業することとなったのだった。
◇ ◇ ◇
ギムナジウムを去る日、周 と冰 は揃ってオーナー・レイの元を訪れていた。
「レイさん、長い間世話になりました。ファミリーの下 を離れて、一人日本に来た俺を家族同様に扱ってくださり、様々掛けていただいたお気持ちに深く感謝をいたします。本当にありがとうございました」
ビシッと姿勢を正し、深々と頭を下げた周 に続いて冰 からもまた心からの礼の言葉が述べられた。
「レイさん、黄 のじいちゃんが亡くなって独りになった僕をスカウトしてくださり、多大なご厚情を賜りましたことを決して忘れません。これからは焔 さんの下 で精一杯生きて参ります。ありがとうございました」
「ん。お前さんたちはこれからも俺の家族だ。俺は僭越ながらもこの日本でのお前さんたちの親父と自負している。ここを実家と思い、いつでも遊びに寄ってくれたら嬉しいぞ」
レイは感慨深げに瞳を細めては二人を見つめた。
「ありがとうございます。レイさんも是非、俺たちの家にもお立ち寄りください。冰 と二人でいつでもお待ちしています」
「ああ、そうさせてもらうよ。焔 にはこれまで同様、裏の世界の案件で手を貸してもらうことも多かろうしな。それから冰 ――。老黄 の代わりにゃ到底なれんが、俺はこの先もずっとお前さんの親代わりだ。焔 と仲睦まじくして目一杯幸せになるんだぜ」
「はい……はい! お……父さん」
「うむ、それでいい。倫周 もお前さんの兄同然だ。何かあれば――まあ焔 の側に居れば何かあることもなかろうが、たまには茶でもしに訪ねてくれよ」
「はい、ありがとうございます!」
鐘崎 と紫月 の二人とは既に四人での宴のひと時を過ごしていたのだが、彼らからは送別の大きな花束が贈られた。
「冰 君、元気でな! また汐留にはしょっちゅう遊びに行かせてもらうからなぁ」
紫月 にクシャクシャっと髪を撫でられて、冰 は熱くなった目頭を押さえた。
「紫月 さんたちもお元気で――。遊びにいらしていただけるのを心待ちにしています!」
「うん、うん! すぐに行くさ! 俺ンちの道場棟上げの際には是非周 さんと一緒に来てくれよなぁ」
一之宮 道場の建設は年が明けてすぐに着工され始めている。上棟式も目前なのだ。
「ありがとうございます! 上棟式、本当に……めちゃめちゃ楽しみにしていますね」
皆それぞれ感極まる涙を抑えて別れを告げ合う。そうしてギムナジウムの玄関を出ようとした時だ。モデル仲間たちがずらりと並んでここを去っていく周 らを待っていてくれたことに驚かされた面々だった。
「イェンさん、雪吹 君、これまで本当にお疲れ様でした。お二人のご活躍に恥じないよう自分たちも精一杯精進して参ります」
皆を代表して源真夏 、北条秋夜 の二人と、如月遼平 、織田紫苑 というモデルたちから周 と冰 に大きな花束が贈られる。彼らは周 と冰 、鐘崎 ・紫月 に続いて新たなカップリングモデルに選ばれた者たちだった。四人、共にこれまでのレベルナインからレベルテンに昇進し、事務所のトップモデルとなった者たちだ。周 にとっては少し後輩に当たるものの、冰 からすれば大先輩といえる。四人が四人とも容姿・性質の面でも素晴らしい才能と人柄を持つモデルたちだった。
「お前さん方……心遣いさせちまって恐縮だ。ありがとうな」
「皆さんのご活躍を楽しみにいたしております。本当にありがとうございました!」
二人で深々と頭を下げる中、冰 と同期だった者たちからも送別の言葉が贈られた。
「雪吹 、元気でな!」
「またここへも遊びに来てくれよな」
「俺たちの活躍も見ててくれ!」
「皆んな……ありがとう。ありがとう……! うん、もちろん皆んなの活躍楽しみにしてるね!」
「雪吹 、イェンさん、お元気で!」
「また会えるの楽しみにしてるからなー!」
仲間たちからのあたたかい見送りに周 は目一杯瞳を細めて、そして冰 はあふれ出してしまった涙を拭いながら別れを告げ、白亜の御殿を後にしたのだった。
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