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117 新しい人生

 紫月(しづき)が去ってから更に半年が過ぎ、今年もまた桜前線が囁かれるようになった頃——。  (ジォウ)鐘崎(かねさき)らを継いでカップリングモデルとなった後進の源真夏(みなもと まなつ)北条秋夜(ほうじょう しゅうや)たちも意欲的に活躍を続け、押しも押されもしないトップモデルへと成長を遂げていた。彼ら後輩を育てる為に尽力していた鐘崎(かねさき)も、いよいよレイのギムナジウムを去り、組へ帰る時がやってきた。鐘崎(かねさき)自身はもうしばらく残るつもりでいたのだが、レイからもう充分に助力をしてくれた、後のことは心配ないからと背を押してもらえたのだった。  一方、汐留の高層ビルで商社を起業した(ジォウ)も順調に経営を軌道に乗せ、(ひょう)(リー)(リゥ)たちも秘書として忙しい毎日を過ごしていた。(ひょう)はすっかり秘書の仕事も板についてきて、今では(リー)(リゥ)と共に社にとって欠かせない戦力となっていた。私生活の面でも(ジォウ)と共に穏やかで幸せな毎日を送っていて、執事の真田(さなだ)にも本当の孫のようにして可愛がられてもいた。鐘崎(かねさき)紫月(しづき)も月に一、二度は訪れてくれて、まさにギムナジウムにいた頃のように四人で和気藹々と夕卓を囲んだり——と、誰にとっても楽しい日々が流れていた。 「見て見て(イェン)さん! 今月号の表紙、(みなもと)さんと北条(ほうじょう)さんが載ってる!」  取引先との打ち合わせを終えて階下のロビーまで見送りに行った(ひょう)が、新刊のファッション誌を片手に嬉しそうな顔で社長室へと帰って来た。(ジォウ)所有の高楼は、低層階にたくさんのテナントが入っている商業複合ビルでもある。その内の一軒である書店に立ち寄ってファッション誌を購入するのが(ひょう)の楽しみのひとつとなっているのだ。 「ほう? 源真夏(みなもと まなつ)北条秋夜(ほうじょう しゅうや)か。表紙を飾るようになったんだな」 「うん! すごいよねー。それだけじゃないよー。巻頭特集には真夏(まなつ)さんたちと一緒に如月遼平(きさらぎ りょうへい)さんと織田紫苑(おだ しおん)さんがミラノで開かれる秋冬コレクションに出場するって載ってるの!」  他にも(ひょう)の同僚だったモデルたちが年に一度開かれるお題に添ったショーに出演が決まったことなどの記事も載っているよと言っては瞳を輝かせる。 「お題のショーといえば、前に俺たちが出たウェディングシチュエーションのアレか」 「うん、そう。今年のお題は″青年実業家の恋″だって」  懐かしいなぁと言っては瞳を細める(ひょう)の表情は穏やかで幸せに満ちている。先輩や同僚たちの活躍を我が事のように喜んでいる様子が手に取るようだ。 「ほう? 青年実業家の恋とはまた趣向を凝らしたお題だな。俺たちも観に行ってみるか」 「うん! 楽しみ」 「そういや——カネが帰って来るのは今週末だったな。ショーには四人で行けそうだな」 「そうだねー。昨夜紫月(しづき)さんと電話で話してさ、鐘崎(かねさき)さんが帰って来る日には僕たちも是非来てくれってお誘いいただいてるじゃない? 当日は何時頃帰っていらっしゃるのかとか細かいことをいろいろお話したの」 「うむ、そうか。カネもよく頑張ってくれたしな。一之宮(いちのみや)と離れて暮らすのはさぞ切なかっただろうが、本当によくやってくれた」  今更ながら頭が下がる思いだと言って、(ジォウ)もまた瞳を細めた。  鐘崎(かねさき)が帰って来ることを知らされてから、労いと組への帰還祝いを込めて、既に贈り物も選んである。 「組にとっては若頭が正式に帰還するわけだ。当日は組員たちが皆、正装で勢揃いするからな」  壮観だろうぜと言って(ジォウ)は笑みを見せた。 「だよねー。僕も(イェン)さんに作っていただいたスーツで行くけど、今からドキドキしちゃってるもの」  組長の僚一(りょういち)をはじめ、組員たちはおそらく紋付羽織袴の正装で迎えることだろう。屈強な男たちがそんな姿でずらりと並ぶ景観は滅多にお目に掛かれるものではない。そういえば紫月(しづき)も父親の飛燕(ひえん)と一緒に紋付の着物を新調したと言っていた。(ひょう)は言葉通り、緊張と期待に胸を高鳴らせながらその日を指折り数えるのだった。

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