119 / 121
118
そして週末——。
いよいよ明日は鐘崎 が組に帰って来る日だ。真新しいスーツをクローゼットから出してきて吊るし、しきじきと眺めながら、冰 は着ていくものや持っていくものをチェック。
「よし——と! これで忘れ物はないよねー」
意気込む伴侶の姿に、周 はクスッと微笑ましい笑みを見せながら、風呂上がりの紹興酒をリビングのテーブルへと並べた。
「冰 、一杯やらんか?」
「あ、うん! 焔 さん、ありがとう」
パタパタとスリッパの音を立ててやって来る仕草が可愛らしい。眠る前にはこうして共に寝酒を交わすのが恒例となってから早一年。ギムナジウム暮らしの時には別室だった寝所も、今ではひとつのベッドで共に眠るようになっている。当然だが情も交わし、香港のファミリーにも二人の仲を快く認めてもらえてもいたのだった。
「ほれ、淹れたてだ」
熱いから気をつけて飲めよ——と、グラスを差し出す。それを受け取り、両の手で持ってふぅふぅと息を吹きかけ冷ましながら飲む姿も周 にとっては実に愛しいものだ。
「支度は済んだのか?」
忘れ物はないか? と、小さい子供の世話を焼くように笑む。
「うん、完璧! お祝いのお品も持ったし、着ていくスーツと靴もしっかり揃えたし」
「そうか。カネも一之宮 も今頃は感慨深い思いでいるだろうよな」
「そうだね。鐘崎 さんはレイさんのギムナジウムで過ごす最後の夜だものね。紫月 さんはそれこそ待ち遠しくて仕方ないんじゃないかなぁ」
半年前、紫月 が先にギムナジウムを去った頃のことだ。鐘崎 から周 の元へ嬉しい報せが舞い込んできていた。なんと、紫月 との仲に進展があり、想いを告げ合えたという報告だった。以来、二人は幾度か汐留にも遊びにやって来ていたから、ダブルデートのような形で過ごすことが常となっていた。傍から見る二人は初々しく、互いを想い合っているのがよく分かるようでいて、冰 もまた彼らの想いが通じ合ったことを心から嬉しく思っているのだ。
窓の外には満月に近い大きな月が煌々と輝きを見せている。
「明日もいいお天気だね!」
「ああ。月齢もちょうど明日が満月だったな」
「まさにおめでたい日になるねー」
少し冷めて飲み頃となった紹興酒を含みながら、そういえば——と言って周 はグラスを置いた。
「冰 、香港のロナルド・コックスを覚えているか?」
「え? ああ、うん、もちろん! ロンさんでしょう?」
「ああ。そのロンだが、実は今、ヤツはファミリーが所有する鉱山で採掘工として尽力してくれているんだ」
「——そうなの?」
驚きにパチクリと瞳を見開いてしまった冰 だった。
ともだちにシェアしよう!

