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 翌朝、雲ひとつない晴天の中、満開となった桜がまさに見頃を迎えたその日——。  鐘崎(かねさき)組では朝一番から組員たちが心湧き立たせながら若頭の帰りを待っていた。  隣に建った一之宮(いちのみや)道場からも師範の飛燕(ひえん)と息子の紫月(しづき)、それに綾乃木(あやのぎ)も駆け付けて、皆それぞれが正装姿で玄関前から門の入り口にまで一列に並び立つその様は、まるで花道の如くだ。汐留からは(ジォウ)(ひょう)(リー)(リゥ)も列に加わってその時を待つ。 「(あね)さーん! (あね)さん! たった今、(わか)からお電話があって白金台を出られたそうです」  組員たちが紫月(しづき)の元へと駆けて来ては逸った顔つきで声を弾ませる。初めて組を訪れた日以来、誰もが紫月(しづき)のことを『(あね)さん』と呼ぶのが定着してしまったらしく、現役モデルを引退してからもずっとそんなふうに呼ばれ続けているのだ。道場が始動してからは、紫月(しづき)鐘崎(かねさき)邸の稽古場に顔を出しては組員たちの武術鍛錬に携わってきたこともあり、今ではすっかり若い衆らからも慕われていた。  これまでは数ヶ月に一度実家へ顔を見せるのがやっとだった若頭だが、道場が建ったと同時に毎週のように帰って来るようになったことからも、組員たちにとってもおそらくそのお目当てはこの(あね)さんなのだろうということが分かっていたようだ。いつしか本当の意味での″(あね)さん″として若頭を支えて生きていく伴侶となって欲しい——と、誰もがそんな期待に胸を膨らませているようだった。  男所帯の彼らにとっては同性である紫月(しづき)だが、近寄り難いほどの美男と言える見た目とは裏腹に、ざっくばらんな明るい性質は話しやすくもあり、何より武術の腕前も抜きん出ているとくれば、若頭の伴侶としてはこれ以上ない似合いの相手といえる。彼らにとって、″(あね)さん″が必ずしも女性でなければいけないという概念はないようで、若頭の帰還を迎える序列にもこれ当然といったように組長の隣を勧めてくる。 「いや、その……いくらなんでも親父さんのお隣に立つのは恐縮だ。俺ァ皆んなの端っこで待ってっから……」  遠慮する紫月(しづき)を若い衆らが取り囲んでは組長である鐘崎(かねさき)の父・僚一(りょういち)の隣へと引っ張っていく。そんな様子に、当の僚一(りょういち)と、そして実父である飛燕(ひえん)もまた、微笑ましげに瞳を細めるのだった。 「白金台を出たところっスから、あと三十分くらいでご到着になりやすよ!」 「ささ、(あね)さん! どうぞこちらで(わか)をお迎えになって差し上げてくだせえやし」 「そうですとも! そうしていただければ(わか)もぜってえ喜ばれます」  ワイのワイのと皆で紫月(しづき)の背を押しては僚一(りょういち)の目の前へと引っ張り出す。 「紫月(しづき)坊、皆もこう言っていることだ。遠慮せずにここで迎えてやってくれ」  僚一(りょういち)本人からもそう促されて、紫月(しづき)は恐縮ながらもうなずいたのだった。  組玄関の中央には紋付袴姿の組長・僚一(りょういち)、その右隣に番頭の東堂源次郎(とうどう げんじろう)、左隣には紫月(しづき)が並ぶ。  源次郎(げんじろう)の隣には組幹部、幹部補佐と続き、紫月(しづき)の隣には香港龍首頭領(ロンシゥ ボス)次男坊である周焔(ジォウ イェン)とその伴侶の(ひょう)、そして紫月(しづき)の父である一之宮飛燕(いちのみや ひえん)。そこから門までは年功序列で年嵩のいった組員から若い衆らまでがズラリと整列しては花道の完成だ。その壮観さといったらまさに映画かドラマのようだった。 「ね、(イェン)さん。本当にすごいですね。僕、脚が震えてきちゃいました……」  昨夜、(ジォウ)からも聞かされていたものの、(ひょう)にとってはそれこそ異次元と言えるほどの光景だ。胸前で手を組んでは今にもガクガク蒼白となり掛かっている愛しき伴侶の様子に、(ジォウ)もまたクスりと笑むのだった。

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