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4話 ホテルと再会
「いや、マジかよ……」
オレは大きすぎる建物の前であんぐりと口を開ける。祝祭を一通り堪能したので、リュシエンの手紙に書かれていた宿の住所まで向かった。お礼をするために呼んだのだから変な安宿ではないだろうと思っていたが――まさか貴族が泊まるような最高級ホテルだとは。
オレとリュシエンの名前で予約してあるとは手紙に書かれていたけど、本当に泊まれるのだろうか。オレは自分の格好を確認するが、正直とてもこのホテルに入っていいような服装じゃない。
案の定入り口でホテルの従業員に呼び止められたが、自分の名前とリュシエンからの手紙を出すと彼らは奥から小さな紙を持ってきてオレの顔と紙を見比べた。
「アディ様ですね。お待ちしておりました。お部屋にご案内いたします!」
紙を見終わると急に笑顔になった従業員に部屋まで案内される。道中なにを見ていたのか聞くと、リュシエンから預かった姿絵だと言われた。描いてもらった覚えもないし、なぜ彼がそんなものを持っていたのかもわからないが、姿絵のおかげで無事ホテルに入ることができたからよしとしよう。
従業員に続いて案内された部屋に入ると、またオレは驚愕してしまった。部屋はオレの家の何倍あるのかというくらいの広さで、家具なんか一生働いても買えないような高級品だ。
「え、この部屋……ですか……?」
戸惑いながら従業員に尋ねれば、彼は笑顔で答えた。
「はい。聖者様が最上級の部屋を用意してほしいとおっしゃっていました。では、なにかありましたらいつでも申しつけください」
「あ、はい……」
「ごゆっくりお過ごしくださいませ」
従業員が部屋から出て行くのを見つめた。しばらくその場で呆然としたあと、オレは部屋の中を見回す。
「壊したら、いくら弁償することになるんだろ……」
床で寝る方がいいかもしれない。そう思いながら、部屋の隅に荷物を下ろした。なるべく家具から距離を取りながら窓の方に近づく。
「すっげえ……」
ホテルの最上階の部屋だけあって、王都を一望できる。たくさんの建物がひしめき合っていて、夕方だからポツポツと灯りが点いている。建物に邪魔されることなく王城も見え、別世界にいるような気分になった。
自分じゃどうやっても一生出せないような宿泊費の部屋を予約してくれるなんて、リュシエンはどれくらいの報酬をもらったのだろう。これはもう靴でもなんでも舐めて、追放されてないことを証明してもらいたい。
そんな利己心にまみれたことを考えていると、部屋のドアがノックされる音がした。
「はい」
返事をして急いでドアの方に駆け寄る。豪奢なドアを開けると、部屋の前に1人の人物が立っていた。被っていたフードを取ってにこりと微笑む端正で優しげな顔は、先ほど大通りで見上げたときよりもまぶしい。
「リュシエン……?」
「はい。アディさん、お久しぶりです」
かつてともに旅をしていて、先ほどまで人々から賞賛を受けていた、この祝祭の主役。オレに会いたいと手紙を送り、この豪華な部屋を予約してくれた人物――聖者リュシエンが、目の前にいた。
近くで見る彼は、旅に同行していたころの優し気な雰囲気はそのままなのにどこかたくましく感じられる。顔つきもさらに大人っぽくなっていて、同性相手なのに胸が高鳴ってしまった。
オレは急いで部屋に通し、彼をソファに座らせる。なにか飲み物でも用意した方がいいかと思いながら再びドアの方に向かおうとすると、リュシエンに手を掴まれた。
「どこ行くんですか?」
「いや、なんか飲む物頼んでこようかと……」
「大丈夫ですよ。お茶はこの部屋にありますから。ほら」
リュシエンが部屋に置かれた大きな戸棚を指さす。めちゃくちゃ高そうなカップやポット、王都で看板を見かけた銘柄の茶葉が置かれていた。
「あの銘柄は気に入りませんか?」
「い、いやあ。あんな高そうなの飲んだことねえし……カップとかも割りそうで……」
「あはは、アディさんらしいです。僕が淹れますよ」
「え、いやそんな……っ!」
聖者様に給仕のようなことをさせるわけには、と言う前にリュシエンは戸棚の方に歩いて行く。
「僕がお茶淹れるの得意なの知ってるでしょう? 座って待っててくださいね」
リュシエンはそう言うと、鼻歌を歌いながらお茶を淹れ始める。たしかに、旅に同行していたころ、宿に泊まるときはいつも淹れてくれていた。宿では必ず2人部屋で同室だったオレとリュシエン。彼は寝る前や寝起きに一緒に飲みたいとお茶を淹れてくれ、オレは彼が淹れるお茶が好きだったことを思い出す。
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