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6話 暴走と疑問
長い時間待った気もするし、数秒だったかもしれない。しばらくののち、頭上からリュシエンが小さく笑う声がした。
「……アディさん」
少なくとも怒ってはいない声色に、オレは少しだけ頭を上げる。――次の瞬間、オレの背中はソファに沈んだ。
「アディさん……僕も同じ気持ちです! 僕とアディさんがとってもとーっても仲良しなところを、みんなにわかってもらわないと!」
「お、おお……」
オレを見下ろすリュシエンの顔がライトの影になっていてわかりづらい。だが、オレをまっすぐ見つめる瞳は先ほどのように妖しく揺らめいている。
「もうどれだけガマンしてきたか……ようやく役目から解放されたんです。だから、アディさん……」
またリュシエンの顔が近づいてくる。両手で頬を掴まれ、そらすことができない。
「好きです、アディさん……僕と結婚して、ずーっと一緒にいましょうね」
「は、なに言っ……んぅっ!?」
むちゅ、と唇に柔らかいものが触れた。リュシエンの顔がオレの視界を占める。彼の言っている言葉の意味は理解できなかったが、彼にキスされていることはすぐにわかった。久々に受ける感触の意味が、旅していたときと違うことも、かろうじて理解できる。
「おい、リュシエン……っ! なんのマネだ……!?」
唇が離れたあと、オレは説明を求めるように彼を睨んだ。仲がいいことを証明をしてほしいと頼んだ相手に向ける表情じゃないことは理解しているが、それでも向けずにはいられない。
「はぁ……♡ アディさんの唇、相変わらず柔らかくて気持ちいいです……舌入れますね」
「待て、やめ……んむっ!? ……は、んっ……!」
拒否しようと口を開いた瞬間、ぬるりとリュシエンの舌が入ってくる。遠慮なく口内を這い回る感触と口の中に流し込まれる唾液の味に懐かしさを覚えた。だが、今はこの行為をする必要はないはず。
口内を蹂躙し尽くした舌が出て行くころには、オレの身体の力はすっかり抜けてしまっていた。
「リュシエン、待て……結婚とか、なんの話だ……?」
息を切らしながらも問えば、リュシエンはうっとりと微笑んだ。
「僕、邪気の浄化の褒美として、アディさんと結婚できるようにしてもらったんです。もう聖者でいる必要もないので……今日からいっぱいアディさんを抱けます」
「いやいやいや……! だから、意味がわかんねえよ……そりゃ、聖者でいる条件は清らかな体ってことは覚えてるけど……オレを抱くってなんだよ」
邪気を浄化する聖者は清らかな者――童貞や処女でないといけない。そうリュシエンから聞かされたとき嘘だろと大笑いしてしまったことを思い出す。旅の仲間はいくら経験があってもかまわないのに、聖者だけは清らかじゃないといけないそうだ。神聖力は清らかであればあるほど強くなるとかなんとか。聖者の選考には経験の有無が基準となり、さらに試練の中にはハニートラップもあると聞いたときは腹がよじれるほど笑ったものだ。
リュシエンも人間だから性欲はしっかりとあった。しかし聖者でいるために誰かに手を出すわけにもいかず、1人になれる瞬間も少ない。そのためリュシエンに懇願されて、オレは彼の性欲発散を手伝ったり互いに抜き合ったりしていた。でも、それとオレを抱くという話には繋がらないはずだ。目の前にいるのは本当にオレが知っているリュシエンなのだろうか。背中に冷や汗が伝った。
オレが困惑していることがようやく伝わったのか、リュシエンがしゅんと眉を下げた。
「すみません……アディさんにようやく想いが伝えられると思ったら、暴走しちゃいました」
「はあ……そっか。で……想いってのはその……オレのことが好き、とか?」
ようやく話し合いができると感じ、最初の疑問を口にする。リュシエンは目を輝かせて頷いた。
「はい! 旅をしているときからずっと……アディさんのことが好きで好きで大好きで……何度手を出そうかと思ったか……聖者じゃなくなったら失望させると思ってなんとか踏みとどまりましたが」
「失望以前の問題だろ……というか、そんなにオレのこと好きなのか……?」
自分で言うのも情けないが、御者の彼も含め彼らの中でオレが一番下だという自覚はある。年齢じゃなく、見た目とか能力とか。一緒に旅をしているときも、なんであんな平凡なやつが仲間なんだ、と陰口を叩かれていたものだ。そんなオレが一行から抜けたもんだから、やつらは喜々として追放されたと笑ったのだろう。
「はい。好きになった経緯はいろいろありますけど……一番の決め手は、アディさんの身体にしか欲情しないからです」
そう言ってリュシエンがオレの股間になにかを押しつけてきた。見なくてもわかる。旅の途中何度も見て触った馴染みのある硬さだ。相変わらずデカい。
「オレ男だし、別にそんなエロい身体じゃねえぞ?」
「ものすごくエロいです。いやらしいです。早く抱きたいです」
「……そうか……」
オレの頬を掴んでいた手が身体をまさぐってくる。胸や腰を意味深に撫でるのは止めてほしい。
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