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7話 告白と気づき

 不埒な手の動きをしながらリュシエンが言うには、以前は性欲がほとんど存在せず、オレに会うまではオナニーすら義務感でしていたそうだ。聖者になるためには童貞処女でいないといけないが、彼は誘惑に打ち勝ったわけじゃなくそもそも興味がなかったのだと。  宿で泊まったときどころか、野宿するときですら仲間から離れて物陰で抜き合いたいと言ってきたこの男に性欲がなかったなんてとても信じられない。邪気が浸食し眠るのすら気を張るような場所にいたとき以外はほぼ毎晩抜き合っていたし、一晩で二度三度と射精させたことも何度もあった。  だが、オレも気づくべきだった。少なくともリュシエンがオレのをしゃぶりたいと最初に言ったときに。してもらうだけじゃ悪いからとオレもしゃぶる前に、友人同士でしゃぶり合うのはおかしいと。故郷の友人たちとはそんなことをしたことなかっただろと。彼の手や口が気持ちいいからと思考を放棄してはいけなかったのだ。  悔やんだところで彼を受け入れていたのはオレ自身だ。溜まっても迂闊に娼館に行けない彼を不憫に思っていたのもあるし、男同士だったが行為に気持ち悪さは感じなかった。正直……身体の相性はめちゃくちゃよかったと思う。  これまでも、先ほどのキスも嫌じゃなかった――と、オレはふと疑問が浮かんだ。 「なあ、邪気の浄化って別にキスしなくてもできたよな……?」  旅の道中、邪気の濃い場所では耐性のないオレは度々その影響を受けていた。凶暴化はしなかったが、邪気が体内に溜まると具合が悪くなってしまっていたのだ。  そんなオレを浄化するために、リュシエンは口から神聖力を体内に流し込んでくれていた。唾液に神聖力を込めて、何度もオレに飲ませてくれたのだ。当時の彼曰く、近くで触れ合えば触れ合うほど効力が高くなるからと。  だが、彼は凶暴化した人やモンスターを浄化するときは手や武器から神聖力を放っていた。つまり、オレとキスする必要も、唾液を飲ませる必要もない。今ならちょっと考えればわかるが、当時はオレのせいで旅を遅らせてはいけないと焦っていた。だから、旅の道中は一瞬たりとも疑問に思わなかったのだ。  リュシエンは微笑んだまま、オレにまたキスを落とす。 「しなくてもできましたが、身体の接触が多いと効果が強いのも本当です。まあ、それでも手を繋ぐ程度でいいんですけどね」 「はは、やっぱりな……」  ちゅ、ちゅ、と唇を啄まれ、オレは反射的に口を開いた。またぬるりと彼の舌が入ってくるが、やっぱり嫌じゃない。舌が絡み合う音に身体の奥が疼くし、唾液をすすられれば腰が跳ねる。たまらなく気持ちよくて、自分からも舌を絡めてしまう。リュシエンの唾液は相変わらず美味い。もう神聖力は込められていないはずなのに、身体の中が幸福感で満たされていくようだ。  リュシエンの気持ちがわかると、今まで疑問に思っていたことが少しずつ解けてくる。オレを旅に誘ったときはどうだったかわからないが、オレが何度も抜けようかと相談したときに拒んだ理由。ほかにも仲間に男はいたのに宿では毎回オレと同室になりたがった理由。事情をきちんと説明すれば娼婦も呼べたはずなのに、性処理をオレに頼んだ理由。ついでに、オレと御者が楽しげに話していると間に割って入ってきていた理由も。  最後はオレの体が耐えられなくなるような邪気溜まりの影響が強い地域に入るからと別れたが、オレにもっと耐性があれば御者の彼と同じように最後まで離脱を許してもらえなかっただろう。仲間たちもリュシエンの気持ちに気づいていたはずだ。だって、みんなそれとなくオレとリュシエンを2人きりにさせたがったし。  聖者としての重責から少しの間だけでも解放されるため、とか考えていた当時のオレはあまりにも鈍感だった。まあ、仲間の1人はオレたちをダシにして自分も好きな相手と2人きりになる時間を作ろうとしていたけど。 「リュシエン、オレが告白を断ったらどうするんだ?」  褒美として結婚を認めさせたのに、肝心のオレが断ったらということは考えなかったのだろうか。そう思って質問する。 「大丈夫です。だって……了承してくれるまでここに閉じ込めて……身体で堕としますから♡」  お金は腐るほどもらいましたから、と笑うリュシエン。世界を救った聖者がこんな男だと言いふらしても、きっと誰も信じないだろう。  オレは小さくため息をついて、リュシエンの瞳を見つめた。 「さすがにそんな理由で連泊は従業員に悪いだろ……とりあえず、1回抱かれてやるよ」  もしかしたら、抱いてみたら気持ちが冷めるってことがあるかもしれない。恋愛初心者で童貞な年下聖者くんの肉欲をひとまず発散させてあげようじゃないか。  噛みつく勢いで唇を塞いできたリュシエンは、キスをしたままオレの身体を軽々と持ち上げベッドに運んだ。オレも鍛えてる方なのに、年下で神殿育ちの男にいとも簡単に運ばれてしまい少しだけショックを受けた。背は彼の方が高いし、服の上からじゃわからないが意外と筋肉がついているのは知っている。オレが抜けたあとの旅が彼をさらにたくましくさせたことも理解している。それでも、ちょっと悔しかった。

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