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第3話 白と黒の神

次の日の夜、国王は近侍とともに正室を訪ねた。 国王が正室の客間に控えている間、近侍は隣の寝所で正室を抱いた。 その翌日の夜、やはり国王とともに側室のもとへと赴き、側室を抱いた。 二人の妃が懐妊するまでの間、近侍は正室を抱き、側室を抱き、そして国王を抱いた。 それから数ヶ月後、二人の妃は時期を同じくして懐妊した。 正室が男児を産むと、その数日後には側室にも男児が産まれた。 こうして国王の願いは成就したのである。 子が生まれてから数ヶ月経ったある夜のこと。 国王は側室の元へと足を運んだ。 漆黒の夜空に悠然と輝く満月の夜、国王は側室と夕餉を共にした後、愛しい我が子を一目見ようと控えの間の扉を開けた。 そこは乳母や侍女の控える場として使われていたが、国王が扉を開けた際、明かりひとつ灯されておらず、一面真っ暗だった。 不審に思った国王は側室に声をかけ、明かりを持ってくるよう言った。 側室が小さな行灯を渡すと、薄明かりに照らされた控えの間には、いるはずの乳母も侍女もいない。 もしや奥の寝所で我が子を寝かしつけているのか。 国王は子が眠っている寝所の扉を開け、行灯を掲げた。 「なっ! 」 「王様、どうなされました? 」 国王は我が目を疑った。 床には乳母と侍女が気を失って倒れていたのだ。 それだけではない。 「あれを——、あれを見よ! 」 「ひぃっ! おっ、王様! これは——」 二人が薄暗い部屋のなかで、ぼんやりとした視界に見えたのはこの場にいるはずもないものだった。 二頭の鹿—— 一頭は白銀のような輝きをもつ白い鹿で、もう一頭は漆黒の闇のように黒い鹿だ。 どちらも天に向かって力強く伸びる大きな二本の角を持ち、厳かな威厳を漂わせている。 その二頭の鹿は子が眠る寝台に前足を乗せ、互いの角と角を突き合わせ睨みあっていたのだ。 「あぁ、そんな……まさか、白神様(しらかみさま)黒神様(くろかみさま)がいるなんて! 」 この国が始まるはるか以前からこの地域には土着の神がいた。 守り神として長く人々の信仰を集めていたが、白い鹿はその神の使いとして、時には神そのものとして崇められていた。 人々は畏敬の念を持って守り神とその神の使いである白い鹿を白神様と呼んでいた。 一方の黒い鹿は白い鹿と対極をなす存在とされ、黒神様と呼ばれている。 ありとあらゆる災いをもたらすものの象徴として古の時から語り継がれてきた災いの神であり、黒い鹿はその使いと言われていた。 二頭の鹿のうち、黒い鹿がギロリと国王と側室を睨んだ。 その目は二人を焼きつくさんばかりに赤く燃えている。 「ヒィッ! 」 国王と側室は驚きと恐怖のあまり、その場で気を失った。 黒い鹿は視線を白い鹿に戻すと、今度は黄色い目で白い鹿を睨みつけた。 二頭の鹿の力は互角だったが、その膠着状態を破ったのは眠っていた子だ。 二頭の鹿が放つただならぬ気配に気付いたのか、つぶらな目を開けた。 暗闇に白銀に輝く白い鹿と、闇に紛れて姿は見えないが異様な光を放つ黒い鹿。 黒い鹿の目が黄色、青と瞬きするたびに七色に変化していた。 子は目を見開き、二頭の鹿を交互に見上げていたが、怖がって泣き出すこともなく、むしろ手を叩いて喜んだ。 その瞬間、二頭の鹿は後方へ飛び退くと同時にそれぞれの体から白い光と黒い光を放った。 二つの光は波のようにうねりながら大きな波動となって衝突した。 二つの波動はこの頭上で押しつ押されつを繰り返し、互いを飲み込もうと絡み合い、円になり、そして一つの渦となった。 しばらくの間、その二つの波動は大きくなったり小さくなったりしながら子の頭上で渦巻いていた。 白銀と漆黒の渦は決して相容れない。 強烈な二つの波動は渦を巻きながらその場で爆ぜると、二つの光の欠片が子の胸の中に吸い込まれていった。 続く

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