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第四話 正妃の嫉妬
あれから五年の月日が経った。
側室の子は聡明な眼差しと快活な笑顔をもつ男児に成長していた。
国王とは血のつながりはなかったが、本人が知るはずもなく、国王も近侍によく似た美しい子を我が子として愛した。
白い鹿と黒い鹿が現れた時はどうなることかと思ったが、気がついた時には二頭の鹿は姿を消しており、子も無事であった。
子が白神様の祝福を受けたのか、黒神様の呪いを受けたのかはわからなかったが、術師にみてもらった限り子に邪気はなく、呪いの刻印もなかった。
むしろ全てがうまくいっていた。
もしかしたら、国王と側室が気を失っている間に白神様が黒神様を追い払い、子を祝福したのではないか。
もしかしたらあの夜の出来事は夢だったのかもしれない。
そう思うほどに平穏無事であった。
正室との関係以外は——
側室よりも先に子が生まれたが、こちらは正室の気質と氷のような美しさを受け継いでいた。
賢く聡明なのは側室の子と変わらないが、やや気難しい性格の子であった。
正室の子は皇太子として国の後継者として側室の子よりも大事にされていたが、もともと正室との相性が良くなかった国王は我が子ではなく、あくまで大事な世継ぎとして接していた。
正室はそのことが心底気に食わなかった。
あの屈辱の夜を忘れたことはない。
近侍の子を産むと知った時も気が狂いそうだった。
気高い私が近侍の子を産むなど身の毛もよだつことだ、いっそ舌を噛んで死んだほうがいい。
そう思っていたが正室だったが、こと及んではその考えを改めることになる。
近侍との情交は正室が想像していた以上に素晴らしいものだったのだ。
快感に次ぐ快感の連続で、女としてこれ以上の幸せはないというほど堪らないものだった。
子供など、どうでもいい。
ずっとこうしていたい。
あの男が、あの男の吐息が、喉元をつん裂くような快感が欲しい——
そう思うほどに正室は近侍に夢中だった。
それが子を成した後は、役目を終えた近侍と交わることもなくなり、正室はめくるめく官能の時を一人誰もいない寝所で思い出し自分を慰めていた。
それだけではない。
産んだ子が皇太子となったにも関わらず冷遇されているとあって、正室の心はますます穏やかではいられなかった。
なんとかしなければ——
正室は機会を窺った。
自分と皇太子の立場を盤石なものにしなければ。
側室が、あるいは側室の子が死に至るような決定的な「何か」を見つけて破滅に追いやらねば——!
正室は側室に間者を送り込んだ。
見たこと聞いたことを一字一句もれなく伝えるよう命令した。
正妃はそんなことをしたところで無駄かもしれないと思った。
客観的に見ても側室は権謀術数と無縁の類に見えたのだ。
まして相手に知られれば、破滅するのは自分の方だ。
しかし後戻りはできない。
この宮廷で生き抜くためには、なんとしても側室とその子を奈落の底は突き落としてやらねば!
側室への嫉妬が正妃を動かした。
「虫も殺せぬ顔をした者が、実は獅子身中の虫だったということは往々にしてあるでしょう……」
正妃は吉報を待った。
正室が間者を送り込んで、十日ほど経った頃だ。
間者が思いもよらぬ知らせをもってきた。
「それはまことか? 」
「はい、間違いございません」
正室は間者が思わず身震いするように奇妙で奇怪な笑い声をあげた。
「あの女が……。ふふっ、やはり人は見かけによらないものね」
正室はそばで控えていた侍女に国王への謁見を取り次ぐよう命じた。
続く
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