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第四話

あの黒い波動が消滅するまでの一刻——。 幼かった光安(こうあん)は厳重な結界の中で、ことの成り行きを見守っていた。 ようやく大主(おおぬし)が光安の元に戻ってきた時、光安は愕然とした。 大主の腕の中には、意識を失った光安の母の姿があった。 黒い波動が天界に向かった時、対処に向かった精鋭たちの中に光安の母も含まれていたのだ。 大主と蘭宣(らんせん)を除いて、すべての者が深手を追うか、あるいはその場で滅した。 光安の母も手当の甲斐もなく、その数日後に滅した。 握った母の手が氷のように冷たくなっていくのを、みているしかなかった。 「光安。いつの世も、人界では魔物が至るところに出没し、絶えることがない。その度に我々は人界へ降り、一人でも多くの無辜の民を救うため、魔物と対峙してきた。今回の皇太子の嘆願は我々が魔を祓い、民を救うという使命からも合致する。しかしながら——」 大主は親指と中指をパチンと擦ると、小さな白い炎が光安が手にしていた巻物を静かに燃やした。 「実のところ、皇太子の嘆願はさほど重要ではない」 光安も大きく頷いた。 「はい。その者は黒神(くろかみ)の呪いを受けた者です。仮にも、その者が魔に支配されていたとしたら……」 「その者はこの世の災いでしかない。生かしておくことなど到底できぬ。その時は祓え——」 「では、その者が魔に侵されていなかった場合は? あるいは救済の余地があった場合には?その者は白神(しらかみ)の祝福も受けているのでしょう? 我らの祝福を受けているなら、黒神の呪いなど、その身の奥底に封じ込めておけるのでは? どんなことがあっても、その者は幸福な人生を送ることができるのでは? 」 「確かに、我らの祝福を受けた者はみな幸福な人生を歩む。例え魔に侵されていたとしても、祝福を与えた神の力が黒神の呪いよりも強ければ、魔物の呪いを抑えることができるかもしれない。 あれ以来、天地を揺るがす黒い波動は目撃されていないことからも、その可能性がないわけではない。それならば我々としては何も言うことはない。 しかし、いまだかつて祝福と呪いを同時に受けた者はいないのだ。 いいか、光安。よく覚えておくのだ。我々白神と黒神は決して、決して、相容れることはない。十五年前、天界にまで及ぶ黒い波動を放った者が、果たして『人の心』を持ち続けることができるのか……」 深い沈黙の間、光安の脳裏にあの時の光景が胸を抉るような思いは鋭い刃物となり、光安の心を何度も何度も、容赦なく突き刺していく。 光安の全身が赤く染まっていくなか、光安はその痛みに必死に耐えた。 母に何もしてあげられなかったという後悔と無力感から、彼はそれを罰として受け入れた。 ただその度に、どこからともなく、声が聞こえてくるのだ。 春の木漏れ日のような、温かく柔らかい母の声。 救いなさい。 無辜(むこ)の人々を。 魔に囚われた人々を。 魔物になってしまった人々の魂を—— その言葉はそのまま光安の信念となった。 光安はその場で片膝をついて跪き、頭を垂れた。 「大主様。どうか、その一件、私にお命じ下さい。私のすべてをかけてその者を探し出してみせます。そして、もしその者が、この世の災いであるならば——」 光安は大主を見上げた。 その目は白銀の炎で揺らめいていた。 「この光安、白神一族の名において——魔を祓います!」

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