fujossyは18歳以上の方を対象とした、無料のBL作品投稿サイトです。
私は18歳以上です
黒と白は愛入れない 第六話 | 美玲の小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
黒と白は愛入れない
第六話
作者:
美玲
ビューワー設定
13 / 17
第六話
光安
(
こうあん
)
は軽いため息をつき、呆れたとばかりに軽く首を振った。 「師匠、いい加減になさいませ。いらっしゃるのは分かっています」 「……私がどこにいるのか、分かるというのかね? 」 光安の耳元でしゃがれた声が聞こえた。 「えぇ、分かります」 光安は落ち着き払って言うと、自分の左肩のそばにすっと手のひらを差し出した。 「さぁ、どうぞ、
蘭宣
(
らんせん
)
師匠」 蘭宣は光安の肩の上に胡座をかいて座っており、手には小さな酒壺を持っていた。 「ふむ、そうか。分かっておったか」 蘭宣は弾んだ声で応えると、光安が差し出した手のひらに飛び移った。 「師匠、今日はどうしてそのようなお姿なのですか? 」 光安は手のひらを自分の目線に掲げた。 視線の先には、身の丈ニ寸ほどの蘭宣が、白地の単衣を身に纏って立っていた。 陶器のような白い肌、腰まで伸びた銀色の長い髪をもつ美男子だ。 「鍛錬だよ。身も心も軽やか、健やかであるためには日々の鍛錬が欠かせないのだ。会得した術をいつ何時でも使えるようにしないとな。それっ! 」 蘭宣は光安の手のひらから飛び降りると、光安の目の前で一瞬小さな光が爆ぜた。 白い煙がもくもくと立ちこめるなか、光安より少し背の低い、銀髪の初老の男が姿を現した。 「ふふっ、ちょっと小さくなっただけのことよ。どうだ? お前さんももやってみなさい」 「いえ、結構です」 「遠慮するな、ここには私とお前さんだけだ」 「いえ」 「やらんのか? 」 「致しません」 「ほう、そうか! 小さくなるのが嫌なのか? それならば、その反対はどうだ? 」 「どちらも致しません」 「素っ気ない、素っ気ない。光安よ、師匠の言葉を蔑ろにするのはいかがなものかと思うがな」 「申し訳ございません」 光安は律儀に頭を下げた。 「そう思うのなら、ほれ、好きな方でいいから、やってみなさい 」 「師匠のお言葉は絶対です——」 光安は長いまつ毛を伏した。 「では、ほら、早く! 」 蘭宣は俯く光安を覗き込むと、好奇の目で催促した。 蘭宣はかねてから言い出したら聞かないのだ。 一体何人の弟子が、蘭宣の戯言に付き合わされたことだろう。 光安も例外ではなく、幾度となく蘭宣に無理難題を持ちかけられていたのだ。 しかし、光安は他の弟子たちとは違った。 神として求められる修練はどんな無理難題も果敢に挑戦し、労を惜しむことはなかった。 しかし、師匠の突拍子もない「
お
遊
び
」に付き合うことはなかった。 この場においてもそうだ。 光安は殊勝な面持ちでその視線を受け止めはしたものの、落ち着いた、しかし、迷いのない声でこう答えた。 「致しません」 「光安、お前さんは本当に付き合いが悪い 」 蘭宣は不服そうな表情を見せたが、その実はなから期待などしていない。 もうお互い呆れるほどに繰り返してきたやり取りなのだ。 光安の返事は聞く前から分かっていて、今更気を悪くすることもない。 「師匠のお言葉は絶対ですが、ものによりけりです。何より——」 「ん、何より? 何だ? 言ってみなさい」 光安は弓形に弧を描く眉を軽く引き上げた。 「では、申し上げます。常日頃から思っていたのですが、師匠は大きくなったり、小さくなったりして、一体何が楽しいのですか? たしか、先日も——」 「先日とは……」 先日とは、蘭宣が光安を連れて人界で夜廻りをしていた時のことだ。 蘭宣はある山の麓で遭遇した、無害にも等しい小さな鬼火の戯言を真に受けて、背比べをしはじめたのだ。 酒に酔っていた蘭宣は、調子に乗って鬼火より大きくなろうとして力加減を誤り、その背丈は瞬く間に天高く伸びていった。 そばにいた光安が即座に術を解いたため、天界を突き抜けていくなどということはなかったものの、これが真昼に起こったとしたら、間違いなく友安国の民の目に触れることになるだろう。 竜仙山を超え天まで伸びていく人ならざる者——そんな異形を目の当たりにすれば、友安国の民にとっては、神も魔物もあったものではない。 白神様への畏敬の念は地に落ち、代わりに魔物と変わらぬ恐怖の対象として捉えかねない。 「ほう……、そんなことあったかな? 」 「ございましたとも。よろしいですか、師匠。私たちはこの友安国の守り神として崇められているのです。その私たちが魔物同様の扱いされるのは耐え難い屈辱です」 「ほうほう、確かに。お前の言う通りだ。だがな、年のせいか、どうにも覚えておらんのだよ」 「では、これはどうでしょう? きっと思い出されるのでは? 」 光安はあくまでしらを切る蘭宣を認めさせようと、別の話をし始めた。 「ちょうど季節は夏、突き刺すような日差しが天の離宮に降り注ぐ時期でした。今日と同じように師匠は虫のように小さくなって、自由気ままに飛び回った挙句、
倫寧
(
りんねい
)
に虫と間違われて叩き潰されそうになったこともございました」 蘭宣は「おぉ!」と目を丸くしながらポンと手を叩いた。 「そうだった、そうだった、思い出したぞ! あの
女性
(
にょしょう
)
の手の早いこと、隼の如し。お前がいなければ、私は一枚の薄絹の布のように薄っぺらになっていただろう。そうでなくとも、とてつもない風圧で飛ばされ、たいそう目が回った。しかし、なんだな。喉元過ぎればなんとかだ、たいしたことはない。ただの笑い話だ」 そう言うと、蘭宣は豪快に笑った。
前へ
13 / 17
次へ
ともだちにシェアしよう!
ツイート
美玲
ログイン
しおり一覧