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第八話

安室(あんしつ)の中央には卓と椅子が置かれ、その卓の上には茶道具が置かれていた。 光安(こうあん)蘭宣(らんせん)と向かい合うように座った。 蘭宣は慣れた手つきで茶を淹れると、光安に差し出した。 光安は茶杯を手に取った。 透き通った緑色の水色が差し込める太陽の柔らかな微光によって煌めいている。 「いただきます」 光安は優雅な所作で茶を口に含んだ。 まろみのあるほんのりとした甘味が光安の口に広がった。 先ほどまで難しい顔をしていた光安の表情が一瞬で柔らかくなるのを蘭宣は見逃さなかった。 蘭宣は小さな笑みを浮かべ、空になった茶杯に茶を継ぎ足した。 再び茶を口に含むと、今度は爽やかな香りとすっきりとした味わいが光安の喉元を通り過ぎていった。 光安は軽く目を閉じると、茶の香りが全身に行き渡るように深呼吸した。 「どうだ?」 「美味しいです……とても」 蘭宣は満足気に頷いた。 「人界にはこの天界にも勝るとも劣らぬ素晴らしいものが数えきれぬほどある。この茶を一つとってもみてもそうだ。お前さんが人界と天界の区別を明確に分け、こういったものを好まないことは知っているが、それはもったいないというものだ」 民が多くの祈りと供物を捧げれば捧げるほど、それが白神しらかみの力となり命となる。 つまり人間のように生きるために畑を耕し、家畜を飼い、それらを食べるということは必須ではないのだ。 それ故に光安は人界のものを口にすることもなく、その必要性もなく過ごしてきた。 その一方で、蘭宣は人界に行っては興味の赴くままによく食べ、よく飲んだ。 蘭宣曰く、「人間が食べられるものであるなら神である私が食べられないわけがない。飲めないわけがない」というわけだ。 「光安、よく聞きなさい。お前さんには、お前さんが目指す神の姿というものがあるだろう。それはそれで良い。神とてさまざまだ。 しかしな、まず何よりも、お前さんには知って欲しいのだ。人界に住む人間たちの営みを。 彼らが日々何を思い、何を憂いているのか。あるいは何を喜びとし、何を悲しみ、そして何が彼らを苦しめているのかを。その上で、神としての務めを果たしてほしいのだ。私の言いたいことが分かるか? 」 「はい、師匠」 「ならば良い。まぁ、そのようなことは改めてお前さんにいうまでもないのだが、年寄りはわかものをみると、つい説教したくなるのだ。許せ、光安」 「いえ。この光安、師匠のお言葉、深く心に刻みました」 「そうか……」 蘭宣は静かに頷くと、光安に両手を差し出すよう言った。 光安は言われるがまま、手のひらを天に向けるようにして両手を差し出した。 蘭宣は光安の両手に手のひらの上に自分のそれをかざした。 一瞬の発光の後、光安は両手にずしりとした重みを感じた。 それは一対の白銀の弓と矢だった。

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