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第十六話

「で、襲われたのに、その女はどうして生きてるんだ? 」 ことの顛末を聞いた聖羅(せいら)がもっともな疑問を投げかけた。 たいていの人間は魔物に襲われて生きていられるはずはない。 たとえ運良く、難を免れたとしても、恐怖のあまり気が触れてしまうこともあるのだ。 「それがね、たまたま通りがかった男に助けてもらったんだそうで」 「男が助た?」 聖羅は大きく目を見開いた。 その目は好奇心で満ち溢れている。 「えぇ、その男は術師かなにかで、魔物が注意をそらした隙に助けてくれたんだと。なんでも、助け出されるまで、ものの一瞬だったらしく、女が気づいた時には魔物の姿はどこにもなかったそうで」 「魔物を退治したのかぁ、すごいなぁ」 聖羅は驚きの表情で口笛を吹くと、感嘆の声をあげた。 たとえ男であったとしても、魔物相手に人助けなど簡単にできることではない。 巻き添えになって、魔物の餌食になるのが関の山だ。 「へぇ……やるねぇ、その御仁、どんな奴だったのかな? 」 「それがね、女が言うには、目の覚めるような美男子だったそうで」 「はぁ? 美男子? なんだよ、それ。暗がりで記憶だって曖昧だったんだろ? なんでそこはしっかり覚えてるんだ? 」 凡庸を絵に描いたような宗閑(そうかん)は困惑の表情を浮かべた。 「そんなこと、俺に聞かれても……。きっと窮地を救ってくれたってだけで、普通の男もいい男に見えたんじゃないか? あるいは——本当に美男子だったのかもしれない」 「ふーん、まぁ、別にいいけど。男なんか興味ないし。それよりも、おまえの話からすると、女は難を逃れたが、魔物自体はまだそこにいるかもしれないんだな」 聖羅はすっかり火の消えた煙管の灰を灰落としに捨てた。 「さぁ、地元の連中の話じゃ、それ以来、間違っても夜にあの辺りを出歩くことはなくなったって言うから。まだそこに居座っているのか、あるいは新たな狩り場を探して移動したか……、誰も分からないって訳さ」 「そうか……」 聖羅は何か思うところがあるのか、無意識に煙管を指の間で転がしている。 宋閑は聖羅を横目に一口酒を口に含んだ。 「じゃ、お頭、俺はこれで失礼するよ」 話は終わったと、宋閑は腰を上げた。 「あぁ。そうだっ、忘れ物だ」 聖羅が宋閑に向かって何かを投げた。 それは、宋閑が旅の行商人から巻き上げた銭袋で、聖羅に手渡したばかりのものだった。 加えて、聖羅は受け取れとばかりに、旅館の亭主から謝礼として受け取った銭袋を卓の上に置いた。 「これ全部ですかい? 」 「あぁ、こっちはおまえの分だ。こっちのは、他の連中の分だ。おまえから渡しておいてくれ」 「はぁ、でも、いいんですかい? お頭の取り分がないじゃないか? 」 「ははっ、心配すんな、俺のは昼間稼いだのがある」 「へへっ、じゃ、遠慮なく」 宋閑は二つの銭袋の重さに満足した様子で、懐にしまい込んだ。 「お頭、いつでも呼んでくださいよ。俺も他の連中も、お頭の一言でいかようにも動きますんで」 「あぁ、そのときは頼む」 宋閑が軽く会釈をして、部屋を後にした。

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