28 / 28

第29話

「いえ、当然のことをしたまでのこと。礼には及びません」 男はそう言うと、袖口から麻布の巾着を取り出した。 巾着の紐を解くと、そこから小さな薬壺を取り出し聖羅に差し出した。 「薄く伸ばすようにして塗りなさい。痛みが和らぐだろう。それに先程の『小物』が出した陰の気も消えるはずだ」 差し出されたその壺の蓋には「消滅気(しょうめっき)」と小さく刻まれていた。 聖羅は親指ほどの小さな壺を受け取ろうと手を伸ばした時、けたたましい鳥の鳴き声が聖羅たちのはるか頭上を掠めたかと思うと、遙か頭上を旋回したのち、聖羅の肩にふわりと降り立った。 一方、新渓の方角からは馬の嘶く声が聞こえてきた。 嗎とともに足音もはっきりと聞こえてきて、明らかに聖羅たちのもとに駆けてくるのが分かった。 橋の袂で馬が止まると、「よしよし」と馬を労う声が聞こえる。 その透き通るような声は若い男とのもとというより、まだあどけなさの残る少年の声で、それは聖羅のよく知っている声だった。 流れる雲の狭間から途切れ途切れに照らされる月明かり。 夜目のきく聖羅はその煌々とした月明りの助けもあって、聖羅は自分の考えが間違っていないことを確信した。 暗がりに行燈の明かりがついた。 セイラが予想した通り、その少年は至恩だった。 至恩は息を切らして聖羅のもとに駆け寄った。 「もう、こんな夜中にどこに行ったかと心配しましたよ。一体ここで何してたんですか、聖羅兄ぃ……! 」 聖羅は思わず眉間に皺を寄せた。 至恩は「あっ!」と小さな悲鳴をあげると、思わず口を塞いだ。 聖羅の隣には聖羅よりも頭一つ背の高い見知らぬ男がいるのに気づいたのだ。

ともだちにシェアしよう!