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第二十二話

「せっ、聖羅姉さん……、あっ、えっと……」 今宵の月明かりにも似た冷えた美しさを持つ男に、図らずも至恩はしどろもどろになってしまう。 聖羅は至恩の呆けた様子を見て、揶揄ってやりたい衝動に駆られたが、すぐに考え直した。 至恩は素直でいい子だが、その素直さゆえ嘘が苦手だ。 宋閑から魔物の話を聞いた時、至恩は眠っていた。 ここに来た理由を知る由もない。 ただ聖羅の肩に乗っている鳥が主人の危険を知らせようと至恩が眠る旅館に戻り、コツコツと扉を突いて、夢うつつの至恩を起こし、何かしらの異変を察した至恩は鳥に導かれるまま馬に乗ってここまで来たというわけだ。 聖羅にはそのことが容易に想像できたし、実際そうであった。 何故自分がここに来たのか、何をしようとしていたのか、きっと知りたがるだろう。 それをこの場で詮索されても困る。 少なくとも、この場で話すことはしたくない。 それにしてもだ―― すごくいやな感じがする。 それは心のどこかに感じるちょっとした違和感、胸騒ぎと言った類いのものだったが、聖羅はこの『ちょっとした』感覚の差異、直感、あるいは本能とでもいおうか――それを信じていた。 その感覚に裏切られたことはないからだ。 だからこそ聖羅は思った。 この術師と関わってはいけない。 一刻も早くここから、このから術師おとこ離れないと。 この術師男は限りなく危険だーー 「至恩、この方は魔物に襲われそうになったところを助けてくださった公子様よ」 聖羅は肩に乗っている鳥の背を優しく撫でた。 その仕草は聖羅と至恩の二人にしか分からないかねてからの合図で、「余計なことは聞くな」という意味した。 「まっ、魔物に! あっ……、でも良かった、無事で……。あの、公子様、聖羅姉さんを助けてくださってありがとうございました」 至恩は軽い驚きの表情は見せたものの、聖羅の意を汲んだ至恩は余計なことは言わず、男に頭を下げた。 「いえ、当然のことをしたまでのこと。礼には及びません」 男は聖羅に言った言葉を繰り返した。 落ち着いた声と丁寧な物腰から至恩は男をさぞ高貴なお方に違いないと思った。 「公子様、私からも改めてお礼申し上げますわ。このご恩は一生忘れません」 聖羅は感謝のまなざしを術師男に向けた。 心の中では舌を出して罵りながら―― (コイツさえいなければ、魔物ちゃん、俺の体に取り込めたってのに、くそっ! コイツとはほんと、二度度お目にかかりたくないね! ) 至恩は聖羅の手を取り、橋の袂に案内する。 聖羅を手伝って馬の背に乗せると、二人は男に向かってお辞儀をした。男が軽く会釈した。 二人の姿はあっという間に闇夜に消えていった。 男は闇夜を透かし見るように、二人が消えていった方角をしばらく見ていた。 男は何か呟いた。 しかし、その声は誰に聞かれることもなく、秋の夜風にかき消された。

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