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第2話 大学九軍陰キャの俺は、大学一軍イケメンに『 いちご狩り』に誘われたんだが。

「 いちご狩り、行かない?」 「は?」  同じゼミというくくりでしか関わったことの無い男に話しかけられ、レポートの準備で忙しかった俺はイラついて睨みを効かせて返事をした。  でも、その直後に俺の睨みは打ち消された。  だってその男、この私立大学じゃ知らないやつはいないくらいのド・イケメンだから。  『大学一軍のイケメン男子』と女子に言われている彼のことを俺は全くと言っていいほど知らなかった。  俺は彼と相反して、暗くて、ぼっちの空気みたいな存在だと自負している。事実、このゼミには15人の生徒が所属しているが友達はいない。  俺の唯一の友達と呼べるのは大学の旧校舎にひっそり佇んでいる『ネット民サークル』の部長の『KK氏』と『西郷』の2人だけなのであるから。  自称するのはこの上なく不愉快であるが、俺たちネット民サークルの部員のほとんどはこの大学では九軍陰キャと称されている。  俺はあまり誰それが何軍だとかは気にしてなかったし、俺たちが陰でそう呼ばれていることも無視していた。  そんな身勝手なお前らの価値観を俺らに押し付けるんじゃねーよ、の精神だった。  のだが。  初めて面と向かって一軍イケメンと呼ばれているこの男を真正面から見たら、見えない何かに敗北した気がして無性に腹が立った。  そのムッとした気持ちのまま、 「何?」  と、一応要件だけは再度聞いてやることにした。もしかしたら、ゼミ関連の重要な話かもしれないし。  すると男は、俺に向かって微かに笑ったような顔をした。見間違いかもしれないが、口角が上がっていたのだ、何か邪心のある笑顔と言うのだろうか。とにかく、一癖ありそうな笑顔だったのだ。 「 いちご狩り、行かない?」 「……イチゴ、ガリ?」  耳から入った音が初めて意味を成さないカタカナで右から左へ抜けていった。数秒止まって考えてから、その言葉の意味を理解した。そうしてまた、困惑した。  何故だ。なぜ、ほとんど話したこともないような俺を誘うんだ?  怪しさを覚えて怪訝な顔を浮かべているのに気づいたのか、男は困り眉でこちらを見つめてきた。 「俺、いつも5人でつるんでる奴らがいるんだけど一人がインフルになって、 いちご狩りに行けなくなってさ。先払いシステムだから、穴空けるのもったいなくてさ。お前、よくゼミの途中でもいちごミルクの飴とかいちごキャラメル食ってるだろ? だから、いちご好きなんかなー? って思って誘ったわけ」 「なっ!」  こ、こいつ! 勝手に俺の挙動を観察していたのか?   確かに俺はいちごは好きだ。ケーキだったら必ずいちごの乗ったショートケーキを食うタイプの甘党男だ。  特にゼミなんかでは脳のエネルギー補給を目的にいちごミルクの飴やキいちごャラメルをつまんでいたが、まさかそれが見られていたとは……。  なぜか俺のほうが襟を正す思いになった。 「……他の奴誘えばいいんじゃね?」  そう、そっけなく拒否しようとした。しかし、男は──。 「んー。ゼミも一緒だし、今後卒論に向けてレポートとか課題も協力したいからさ、それ込みで仲良くしない?」 「……ぐっ」  爽やかな笑顔で正論を述べられると、成績重視の俺には痛いほど響いた。確かに、この男と今のうちに親睦を深めて卒論のためのレポートや課題に協力して取り組めればウィンウィンだ。それに、 いちご狩りだなんて実は行ったことがない。噂に聞く いちご狩りは、採れたての甘いいちごが時間制で食べ放題だと聞いている。しかも練乳も付けてもらえるらしい。  人生で何回来るかわからない いちご狩りのチャンスに、俺は乗ることにした。 「……わかった。行ってやるよ、 いちご狩り」  そっけなく呟けば、男は小さくガッツポーズをして目を細めて喜んでやがった。感情がわかりやすいタイプの奴だな。 「よっしゃ。じゃあ、|新《あらた》。改めてよろしく」 「……よろしく」  なんだよ、俺の下の名前知ってんだこいつ。てか、いきなり呼び捨て。やっぱコミュ強の陽キャには敵わん。  差し出された手を仕方なく掴めば、その手の大きさとごつごつした骨に驚いた。男の手って感じだ。対して俺の手は、女みたいだとよく言われる。華奢ですべすべと言われる。 「んじゃ、ゼミのグループから友達登録して個人DMでメッセージ送る。一応、自己紹介だけ先に。|海皇《かいおう》。お前、俺の名前知らなさそうだからさ。じゃ、また連絡する」  そう言って、颯爽と教室から出ていってしまった。  そうか。あの男、海皇というのか。強そうな名前だな。きりっとした眉と、ぱっちりした二重、整ったEラインからわかる高い鼻、シャープな顔の輪郭。  俺と同じ同じ男か?   そう疑いたくなるほど、見た目が整っている。 「まあでも、 今後のゼミのために親睦を深める目的でいちご狩りに行くだけならいいか……」  俺がそんなふうに軽く捉えたのを後悔するような波乱の いちご狩りがいよいよはじまる。

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