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第3話 一軍陽キャの漢共に囲まれ いちご狩りへ行くのはもはや修行(そりゃそうだ)
「ちっ。おっせぇなあいつ……」
俺は朝7時半に大学近くのコンビニの駐車場で奴を待っていた。
俺の言う奴というのはすなわち「海皇」のことだ。
今日は晴れやかな土曜日の朝。昨日、奴からメッセージが届いたので、それを見て今ここに立っている。
【明日の朝7時に大学近くのネコネコマートで待ち合わせな。俺ら車で向かうから待ってろ。着いたら連絡する】
そんなメッセージを信じた俺が浅はかだった。奴は約束の7時になっても現れず、奴の連れとやらも現れない始末。俺はイライラが抑えきれずにネコネコマートでグミとラムネを買って口の中で噛み砕いていた。無論、どちらもいちご味だ。
俺だって一応、 いちご狩りに連れてってもらうからにはさ、6時50分にはネコネコマートの駐車場に来たし、俺は免許を持ってなくて運転できないから奴と奴の連れにお菓子とか差し入れも買ってきたっていうのに。
むすーっとした自分の表情が、ネコネコマートの透明な窓に映る。
せっかくの いちご狩り。柄にもなく昨夜は遠足気分で眠るのも困難だったのに。
強いていえばだが、かなり、わりと、楽しみにしてたんだが。
少し気合を入れすぎていたかと自嘲する。俺はあくまでも奴の連れの補欠であり代打であるだけ。欠員補充者に過ぎないのだ。
すっかりしょげた俺は足元を見下ろす。波乱の いちご狩りになること間違いなしの予感がして背筋がぞわっとする。
俺みたいなガチ陰キャが一軍陽キャどもと いちご狩りって、異世界転生でもした気分だ。まったく。
そんなことをスマホゲームをしながら考えていたら、スゥゥンという機械音が突然聞こえてきて身体がびくっと跳ねた。音の方向を見ればそこには──。
「あらたー! ごめーん。待たせたな」
「……っち」
黒光りするロールスロイスの運転席から現れたのは、奴だった。俺は無意識に洩れた舌打ちをすぐに引っ込めて、車の様子を伺う。ド派手な金持ちの持っていそうな車だ。
さすがは一軍陽キャ。乗る車も一流ってか。
「遅えよ」
ジト目で奴の顔を見れば、困ったように首の後ろをかいていた。
あーそれ。漫画とかで見たことあるポーズ。イケメンがやるからまだ見てられる「首痛いポーズ」だ。
「ごめんな。バムイが昨日、サッカー見て寝落ちしたまんまだったらしくてさ。一番最初にバムイを迎えに行ったから、準備に30分かかって他の2人も車に乗せたら全体的に遅れた」
そう説明を受けつつ、奴は俺をエスコートするようにロールスロイスに誘導する。俺は後部座席に座るよう指示されたのでドアを開こうとすると自動で開いた。さすがは高級車。おもてなし力は抜群だ。
「よーっす。わりーなー。俺が遅刻の原因だ」
と言って、手足の細長いモデル体型の男が俺を出迎えた。肩につくくらいのブレイズがすごく男らしい。
「こいつがさっき言ったバムイ。セネガルと日本のハーフで東京生まれ千代田区育ち」
「……はあ。なるほど」
だから日本語が流暢なのか。いかつい黒のサングラスをかけているから、余計にモデルみたいでロールスロイスが一番似合うイケ男だと思った。
俺もそこそこ背が高いが、ロールスロイスの車内は広々ゆったりしていて手足もらくらく伸ばせる。これなら長時間移動の車内でも快適に過ごせそうだ。俺が車に乗り込むと奴が運転席に戻った。
「よっしゃ行くぜ! 漢だらけのいちご狩り。レッツゴー!」
海皇の漢臭いセリフに車内の漢どもが雄叫びを上げる。バムイと、助手席に座る野球帽を被ったピッチャーみたいな風格の男と、後部座席真ん中のバムイを挟んだ俺とは反対側の席に座るいかにもなギャル男が弾ける笑顔で拳を突き上げた。
「「「「おーっ!」」」」
すいません。俺の耳、イカれました。お前らの雄叫びで鼓膜ブチ破られたわ。
俺は爆音の車内で一人耳を両手で押さえた。
車が発進すると、それぞれテンションが爆上がり中なのかギャーギャー野鳥の如く叫び出し、片手に持ったエナジードリンクをがぶ飲みし、大音量のヒップホップが流れ出すカオス空間に変わったのだ。そして、俺以外の皆で大合唱。しかも日本のもUSのもごちゃまぜに。
雄の歌声を聞きに来たんじゃねえんだわ、俺は。
そんな4人のガチ一軍陽キャノリに開始早々ついていけなくなった俺は、一人で静かにノイズキャンセリングイヤフォンを付けて窓から青空を眺めるだけだった。
それにしても今日は いちご狩り日和なくらい、晴れている。
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