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第4話 海皇の司令『お前ら、いちごを食い尽くせ!』 俺『ふん。言われなくても』

「おーっ! すっげえ! すっげえ!」  高速道路を走り、休憩で寄ったサービスエリアでは4人の漢どもがわーわーぎゃーぎゃー叫んでソフトクリームを食べ比べしている光景を見ていた俺は、呆れて何もコメントする気にならなかった。  外のベンチに腰掛け、サービスエリアに併設されているドッグランをぼんやりと眺めていると白いチワワがとてとてと歩いてきて、飼い主らしき女性と楽しそうに戯れているのが見えてほっこりとした。  はあ。かわいい……。動画で見るより生のチワワのほうがかわいいよな……。  そう。俺はチワワが大好きなのだ。昔、祖父母の家に白いチワワがいて幼い頃はよく一緒に遊んでいた。その子は老衰により数年前、虹の橋を渡ってしまったが今でも思い出は色褪せない。  キャンプに一緒に行ったり、スノボをしたり、お散歩して走りまくったり。  なんだか嬉しい気持ちと寂しい気持ちがぶわっと込み上げてきて、柄にもなく目頭が熱くなった。  そしてそれを奴に見られていたらしい。ソフトクリームを食べ終えた奴が俺に近づいてきたのだ。 「なあに? 泣いてんの?」  意地の悪そうな笑顔を浮かべて俺に顔を近づけてくる。だから俺は、しっしっと虫を払うように手を振った。 「これで機嫌直してくれよ。そこの売店で売ってたからお前にやる」 「え?」  そう言って奴が俺の膝の上に正方形の包みを置いた。赤いリボンでラッピングされたそれは、まるで小さなクリスマスプレゼントの小箱みたいだ。  好奇心が勝ってしまい早速開けた俺はすぐに後悔する。 「じゃじゃーん。ご当地コンドームでした!」  いちごカラーを意識しているのか、ピンク色のゴムが5枚入っていた。ラブグッズらしい。ふざけんな。 「テメエ……」  わなわなと肩を震わせていると逃げ足の速い奴は既に車へ向かって走って行った。チワワを見て感傷に浸っていた俺の純粋な心を返せ。  捨てるわけにもいかないので黒い革の長方形のショルダーバックに押し込む。包装箱だけゴミ箱に捨てて、個包装された本体だけをバックの底に沈ませた。  こんなゴム、誰が使うか。  とこの時は思っていたが、これが災厄の引き金になるとは思いもしていなかった。 ◇◇◇  サービスエリアを後にして、いよいよ いちご狩りの行われるビニールハウス横の駐車場が見えてきた。車内は相変わらず爆音で、緑豊かな風景を静かに見つめることもできない。俺はもう帰りたくなってきた。一軍に九軍は勝てないと思い知らされたからだ。一刻も早く自分の部屋のゲーミングPCに抱きつきたい。俺を理解し、受け止めてくれるのはお前だけだ。  そんなことを考えていたら、ついに車がビニールハウスに到着した。興奮している漢どもを他所に俺はこの澄んだ空気を深く吸い込んだ。うん。快晴なり。自然は癒されるな。 「よーし。受付済ませるぞ。俺についてこい! お前ら俺からの司令だ。いちごを食い尽くせ!」 「「「おー!」」」  と拳を突き上げる漢たちの後ろに少し距離を置いて歩きながら、俺は早くいちごを食べたくて仕方がなかった。頭の中で、どうすれば時間制限以内により多くのいちごをもぎ取り食べられるかをシュミレーションする。初めての体験には子どもに戻ったみたいにわくわくする。  無事に5人の受付を済ませた奴が、各々に練乳ソースの入ったプラスチックの受け皿を配っている。俺は最後に受け皿を受け取った。 「お前もいっぱい食えよ。なにせお前はタダ食いだからな」 「ふん。言われなくても」  ツン、とそっぽを向いてビニールハウスへ入る。少しもわっとした温かさと甘酸っぱいいちごの香りに包まれてぽやぽやしてくる。  そして今、農家さんの笛で いちご狩りがスタートした。 「ビィーッ! 今から40分間。いちご食べ放題です。練乳のおかわりは私に言ってください。すぐにおかわりをお持ちします。どうぞ、自慢のいちごをたくさん食べていってください」  ビニールハウスの中にいる10人がそれぞれ好みの場所へ散り散りになる。奴らは固まって食べ始めているようだが、 いちご狩りマスターの俺にはちゃんとした作戦がある。今日のために事前にネットで調べておいたのだ。  まず、一番日当たりのいいところになっているいちごを食べ尽くす。その後、少し日陰にあるいちごを食べて、甘さの違いを味わうのが美味なのだと。  俺は1秒でも時間を無駄にしないよう、機敏な動きでいちごをもぎり口に運ぶ。大好きな練乳も、足りなくなったら農家さんにお願いしておかわりをもらった。

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