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第5話 海皇「これからが本当の いちご狩りだ」【お姫様抱っこで拉致された】俺「ほゃ?」

「んっまー!」  バムイと奴、そして奴の連れ2人が感涙しながらいちごを食べているのを横目に見て、俺はぽよんとなった下腹部に手をやる。  ……少々、急いで食べすぎてしまったようだ。もうこれ以上、胃が受け付けない……少し休もう。  今はもう、ビニールハウスの中に立ち込める練乳の匂いだけでも、うぷっ、となってしまう。  そうか。いちごは水分が豊富なんだ。ということは、ゼロキロカロリーなんだ。  そう、自分に都合のいい論理を当てはめ気持ちを逸らす。具合が悪い、というほどではないが、食べすぎたと自覚していた。おそらく、1列がおよそ7メートルのいちごのレーン。  それを俺は、全部で10列あるいちごのレーンの中で2レーン分を一人で食い尽くしてしまったのだ。  何度も練乳のおかわりに行った俺を見て、農家の人が「君はいちご好きな野生のうさぎみたいだ」と感心して頷いたことにも納得する。  制限時間まで残り15分もあるが、これ以上食べたら体調が悪くなるかもしれないので、参加者の中で一人だけそそくさとビニールハウスから出て外のベンチに座って待つことにした。幸い、外の空気は澄んでいて深呼吸を繰り返せば元の体調に戻れそうな予感がした。  ──なのに、奴が余計なことをするから。話がややこしくなった。 「ビィーッ! 皆さん、お時間はここまでです。たくさん食べられましたかー?」  制限時間を知らせる笛を農家さんが吹く。いちご狩りに参加している人達が、一斉にビニールハウスの外に出てきた。奴らはと言うと、バムイとその他の2人が喫煙所で煙草を吸いに行くと言うので、奴と俺の2人きりになってしまった。  奴は煙草を吸わないらしい。タバコミュニケーションをしないのは奴にしては意外だなと思っていたところ、不意に声をかけられた。 「おい。大丈夫か?」 「え?」 「なんか疲れてそう」  奴が近寄ってきて、俺の座っているベンチの隣に腰掛けてきた。不意の至近距離に思わずたじろぐ。 「あー。あれだろ。お前、いちごを食いすぎたんだな」 「うっ」  図星だ。俺はかぁあと頬に熱が集まるのを感じて眉を寄せて目を閉じた。 「別に。お前に関係ねえだろ」 「元は取れてるみたいだな。タダ食いのくせに」 「は? いちご狩りに誘ってきたのはお前だろ。いちいちムカつくな」  俺がイライラを止められずにそう吐き捨てれば、奴は少し肩をすくめて笑った。 「なんかお前のそういう子どもっぽく拗ねるところ、見てて面白い」 「はぁ? 煽ってんの?」 「違う違う。ただ、いつも無表情のお前でもそんな顔するんだなーって思うと意外でな」  俺はその言葉がやけに胸に響いた。  こいつ、普段から俺のことよく見てたのか? 九軍陰キャの俺を? 何百人もいるキャンパスで?  そこでふと、ひとつの疑問が浮かぶ。  なんでこいつ、俺のことそんなに見てるんだ? 接点なんてないし、いちご狩りに誘われるまで話したこともなかったのに。  俺の自問自答を断ち切ったのはバムイだった。煙草を吸い終わって気分がしゃっきりとした様子だ。いちご狩りは日帰りの予定だったので、俺ら一行は東京へ帰ることにした。  帰りの運転は、行きに助手席に座っていた野球帽の男が務めることになったようだ。俺は、後部座席で真ん中にバムイ、バムイを挟んで奴が座席に腰掛けている。  行きと違って帰りは運転手以外はみんなぼんやりとしていたり、昼寝をしていたりと無音だった。窓から光が差し込んできてぽかぽかしてあったかい。俺も車内の静かさに身を任せて瞳を閉じた。 ◇◇◇  どのくらい眠ってしまっていたんだろう。  誰かに肩を揺さぶられる感覚に目を覚ます。もう少し寝かせてくれよ、と内心思っていた。 「……ん?」 「あ。やっと起きた」  目の前には奴のみ。そしてここは車内ではない。何かの部屋の中のようだ。俺はその部屋にあるベッドに横たわっていたらしい。 「おいっ。ここどこだよ!?」  急展開に頭がついてこない。バムイは?他の連れはどこ行った? それにここ、なんだ?  パニックになりそうな頭を抱えていると、奴が何故かベッドに腰掛けて俺の肩に手を置いた。やんわりと揉まれる。 「ここは俺の家。バムイたちはもう各自の家に送り届けた後。お前だけすやすや寝てたから、家に連れてきた」 「は? 起こせばいいだろ!」  すごく真っ直ぐな瞳で奴が見つめてくる。 「なんで? 俺はもう少し、お前と話したかったからこうして車からお姫様抱っこでベッドに下ろしたんだよ」 「なっ! なっ! お姫様、抱っこだと……」 「お前、やっぱ軽いよな。ちゃんと飯食ってる? 二郎系ばっか食ってたら身体壊れるぞ」 「うぐっ。お前に言われなくても……!」 「ははっ。そうやってムキになるとこ、ほんと可愛い」  ん? 待て、こいつなんて言った?   今、俺のことを『可愛い』だとかとほざきやがったな。  俺は「ケッ」とふてぶてしく両腕を組み、顔を顰めた。 「俺のことが可愛いだなんて、お前目がおかしいんじゃないのか?」  すると急に奴の纏う雰囲気が変わった。いつもは笑っているようなところなのに、目が|本気《マジ》だ。奴の瞳の奥がゆらゆらと炎を揺らすように熱く沸き立つ。俺は、ごくりと生唾を飲み込んで奴の次の動きを待った。 「俺はお前のいろんなところが、可愛くて仕方ないんだけど。責任とってくれるよね?」  そっと手のひらを掴まれ、奴の胸に押し付けられた。手のひらからじんわりとした熱が伝わってきて、それ以上にばくんばくんという速い鼓動が伝わってきて、何故か俺の耳が紅くなった。  何やってるんだ、こいつ……。  再び文句を言ってやろうとしたら、視界が反転した。白い天井とシーリングライトに照らされ、目がチカチカとする。両腕を上からものすごい力で押さえつけられ動けない。なら足で、と反抗しようとしたが奴の両足に絡め取られて身動きができない。  その時、俺ができたのは浅く息を吸うことだけだった。奴がおもむろに俺のショルダーバッグの中に手を突っ込み何かを取り出した。  それは、昼間のサービスエリアで渡されたご当地コンドームのピンク色の包みだった。  ぎょっとした俺は、おそるおそる覆いかぶさっている奴を見上げる。今にも鼻先同士が触れそうな妖しい距離に身体がじわりと熱くなる。首筋にたらりと汗が伝う。

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