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痛み*

「カース!」  その肩を慌てて受け止めたリンデルが、バチバチとした痛みを感じる。  汗に濡れ、荒い息で喘ぐ男は、もうその瞳を閉じていた。  リンデルは、瞼へそっと口付ける。  小さくパチっと弾けるような痛み。  俺の都合で、無理な術の使い方をさせてしまった。  体も辛かっただろうに、目も痛かっただろうに。  俺のかわりにケルトを慰めてくれて、その上俺の痛みも引き受けてくれて……。  申し訳なさと、それを遙かに上回る感謝が、リンデルの心を熱くさせる。  男をそっと横たえ、その唇に口付ける。  刺さる痛みさえ、今は愛しかった。 「カース、ありがとう……大好きだよ……」  名残惜しそうに男の黒髪を撫でてから、男が少しでもゆっくり休める事を祈って、リンデルはロッソを振り返る。 「ロッソ……」  呼ばれて、ロッソは黒い瞳をわずかに潤ませてリンデルを見上げた。 「主人様……」 「こんな時ばかり頼って、悪いと思うんだけど……」  リンデルが申し訳なさそうに右手を首の後ろへ回す。  それはいつもの照れ隠しの仕草だった。  ロッソは主人の体調が回復しつつあることにホッとしながらも、先程のカースの言葉をもう一度思い返す。  主人の体はまだ痛みに覆われている。なるべく早く、して差し上げなければ。 「いいえ、私は主人様が求めてくださるのならいつでも構いません」  答えながら、ロッソはリンデルの下着を下ろす。 「……それは、忠誠心から?」  真剣な声色に、ロッソはリンデルの瞳を見る。  金色が二つ。まっすぐにこちらを見ている。 「まさか」 「え?」  驚きを漏らしたリンデルを、ロッソはゆっくり押し倒し、その首筋に口付ける。  触れる度パチパチと返る痛みが、自身が本当に主人に触れているのだとロッソに実感させた。 「まさか、主人様はそのようにお考えだったのですか……?」  耳元で囁かれて、リンデルはびくりと肩を揺らす。 「ぅ……、っ……、違う、のか……?」  ロッソは器用にリンデルのボタンを外しながら、首筋から鎖骨を舐め上げ、そのさらに下へと舌を這わせる。  ボタンを開けきると、ロッソの手はリンデルのものへと伸びた。 「んっ……」  ゆるゆると扱かれて、緩く立ち上がっていたそれは、力を増した。  穢れが濃いだけあって、リンデルのものは触れるだけでビリビリと痺れる痛みが全身を巡るようだった。  しかし、これを自身に入れても良いと許可をいただけた。  そう思うだけで、ロッソの下腹部は熱く疼いてたまらない。  ロッソは熱に急かされるように自身の下着を下ろした。  準備不足ではあるが、非常時だ。  そう思うことにして、ロッソがそれを自身にあてがおうとすると、リンデルが慌てた。 「ちょっ、ちょっと待って! せめて、俺が解すからっ」  リンデルが伸ばしてきた手をロッソが掴む。 「いいえ、待てません」  ロッソはいつもの無表情のままに頬を染め、弛みそうな自身の口端をぺろりと舐める。 「ずっと……待っていたのですから……」  上擦った声で囁いたロッソが、今度こそそれを自身へと導いた。 「ぁあっ」  つぷ。と先端があたたかい体内に入り込む感触に、リンデルが思わず声を上げる。 「主人様……、カースさんとケルトさんが起きてしまいますよ?」  囁くようにロッソに告げられて、リンデルは二人の名前に息をのむ。  リンデルの上に跨ったロッソがゆっくり腰を落としてゆくと、まだ解れていない中へと強引に肉を割いて進む感触が、リンデルを追い詰める。 「ふ、ぁ。……ぁ……っ」  ロッソは中で弾ける痛みすらも忘れて、うっとりと目を細める。  ずっと欲しいと思っていた。  あの日一度だけいただいたこの熱を。  また私の中へ彼が入ってくれたらと、何度願ったことか。 「ぅ……。んっ……っ」  腰を揺らしながら、従者は主人の耳元へと唇を寄せる。  主人の頬はすでに桃色に変わり、金色の瞳はゆらりと滲んでいる。 「主人様は、気付いていらっしゃらなかったのですか……?」  耳元で囁くロッソの声。 「な、……に、を……っんんっ」  ズブズブとロッソはそれを奥まで……奧の、奥まで押し入れる。  ここまで、この奥のさらに奥まで入る感触は、この方特有のものだった。  全身に広がる快感に、ロッソは震えた。 「私は、貴方が……ずっと欲しかったのですよ……?」  熱い息を耳内に吐き出され、リンデルがゾクリと身を震わせる。 「え……?」  驚いたように見開かれたその金色の瞳を、ロッソは熱の篭もった黒い瞳で絡めとる。  人の気も知らないで。  いつだってこの方は、あの男しか見ていない。  けれど、そんなところがまた、この方の美しくてたまらないところだった。  ほんの少しの憎しみをかき混ぜるように、ぐりぐりと腰を回す。 「っあっ、あぁっ……あああんっ」  ロッソの動きに、主人は素直に、敏感に反応する。  二人が触れるたび、触れた場所にバチバチと痛みが疾る。  もうロッソには、その痛みまでもが快感だった。  はしたなく緩む口元を見せまいと、主人の胸元へと顔を伏せる。  この数日、乾いた布で拭く程度しかできていないその汗ばむ胸板は、敬愛する主人の香りで満ちていた。  先ほどからの刺激でか、既に小さく立ち上がっている突起へと舌先を這わせる。 「ふぁっ、ぅ、ぅぁんっ」  ビリビリとした痛みとともに、ぬるりと舐め上げられる。  刺激を与えられる度、リンデルは、どうしようもなく声を漏らしてしまった。  愛しい人が、カースがそこへ寝ているというのに。  ギリっと歯を食いしばり、リンデルは声を漏らすまいと手のひらで口を押さえる。  滲んだ金色の瞳から、涙が一粒零れる。  ロッソは、その一途な姿をもっと乱したいと思った。  この男の前で、この方をもっと淫らに啼かせたい。そう。私の身体で。  ロッソは暗い欲に突き動かされ、腰を揺らす。 「ゔぁっっっぐ、ぅぅっっ!!」  途端、リンデルの声が痛みを堪えるような苦しげなものに変わる。  そうだった。とロッソは気付く。  込めねばならなかったのは、欲ではない。愛だ。  不意に、気を失っていたはずの男が呻くように苦しげな声を漏らした。  カースはなんとか森の色をした右目だけを僅かに開くと、体は上げきれないのか床に這いつくばったままで、ロッソを睨んだ。 「ってめぇ、ふざけんじゃねぇぞ……」  従者は愕然と、自分のしてしまったことの愚かさに顔を青くしている。 「俺の、リンデルを貸してやってんだ……。乱暴、したら……容赦しねぇ……」  従者の表情に、意図は伝わったと分かったからか、男はそのまま気を失った。  叱責され、すっかり萎縮したロッソの前で、リンデルは先程の衝撃からなんとか立ち直ると乱れた息を整えながら幸せそうに微笑む。 「ふふふ……、カースは、心配性だなぁ……」  寝ていたわけではない。意識を失っていたはずの男が、それでも自分を心配して目を覚ました。  その気持ちが、リンデルの心をどこまでも満たしてゆく。  すぐに昏倒してしまうほどの状態で、ただ一言、リンデルを大事にしろと、それだけを伝えに目を覚ました。 (『俺の、リンデル』だって……)  カースは普段、そんな言い方をする事はない。  多分言葉を選ぶほどの余裕がなかったせいだろう。  それでも、そう言ってもらえたことが、リンデルにはたまらなく嬉しかった。 『お前は、俺が絶対に死なせやしない』とカースは言った。  そして言葉だけじゃなく、毎日鍛錬に励んでくれた。  カースは本当に本当に、俺を全力で守ろうとしてくれている。  いつだって、持てる全てを、躊躇いなく俺のために注いでくれる。  今日、闇に炙られたリンデルが失ったのは、おそらく愛と呼ばれるものだった。  リンデルは、ここまでたくさんの人達から受け取ってきた愛を使って、この世で一番寂しい少年を慰めた。  倒れた時には、心が寒くて寒くて涙が止まらないくらいに痛んでいた。  きっとあの少年はこんな痛みをずっと一人で抱えていたのだろう。  けれど、もうリンデルの心は痛くなかった。  カースのくれたあたたかいもので、心は今も柔らかく包まれている。  いつでも惜しみなく真っ直ぐに愛を注いでくれる男へ、リンデルは手を伸ばす。  けれどロッソに押さえられたままでは、もう少し届きそうになかった。 「カース……大好き……」  ぽつりとリンデルが囁いた言葉は、愛に溢れていた。

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