3 / 6

第3話

朝の光がカーテンの隙間から差し込み、瑞希はゆっくりと目を覚ました。 隣には、昨夜と変わらぬ穏やかな寝顔の美咲がいる。女性の肌に触れるだけで動悸がするはずの自分が、男二人とはいえ、これほど深く眠れたことに驚きを隠せない。 「……ん、おはようございます。瑞希先輩」 美咲がゆっくりと身を起こす。乱れた栗色の間から覗く水色の瞳が、朝露のように澄んでいた。 「ああ、おはよう、美咲くん。……昨夜は、その、悪かった。何もできなくて」 「いえ、俺は楽ができて助かりましたよ。先輩の寝顔、相変わらず綺麗でしたし」 美咲は事も無げに言い放ち、手際よく身支度を整えていく。その流れるような動作を見つめながら、瑞希は意を決して口を開いた。 「美咲くん。……今度は、店を通さずに会えないだろうか」 瑞希の言葉に、ネクタイを締めていた美咲の手が止まる。 「店を通さずに? つまり、プライベートで、ということですか?」 「あぁ、良ければ君のことをもっと知りたい。大学時代もそうだったが、昨夜君と過ごして……確信したんだ。君となら、俺のこの……忌まわしい過去も、少しは忘れられるような気がする」 真面目な赤眼を真っ直ぐに向け、瑞希は切実に訴えた。 しかし、美咲から返ってきたのは、甘い期待を打ち砕くような、冷ややかで現実的な微笑だった。 「先輩。勘違いしないでください。昨夜、俺が優しくしたのは、貴方が『客』だったからです」 「……客?」 「そうです。俺はこの顔と身体を売って生活しているんです。……今の俺にとって、時間は金そのものなんですよ。先輩が俺に会いたいと言うなら、それは『指名』でしかあり得ません」 美咲は一歩、瑞希に歩み寄る。179cmの長身が放つ圧倒的な「モテる男」のオーラ。だがその瞳に、かつての純粋な後輩の影は微塵もなかった。 「金も払わずに俺の時間を奪おうなんて、随分と虫が良すぎませんか? ……俺、金が無い男にはこれっぽっちも興味無いんです。恋愛なんて、もっと興味ありません」 瑞希は言葉を失った。 家事一つ満足にできず、真面目すぎて世渡りも下手な自分。対して美咲は、その美貌を武器に、誰からも愛されながら冷徹に「価値」を見極めている。 「……いくらだ」 「え?」 「いくら払えば、君は俺の隣にいてくれる」 瑞希の絞り出すような問いに、美咲は満足げに目を細め、その薄い唇をハウレスの耳元に寄せた。 「……安くはありませんよ? 瑞希先輩。俺を独占したいなら、それ相応の覚悟、見せてくださいね」

ともだちにシェアしよう!