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第4話
「……本気なんですね、先輩」
数日後。都内の隠れ家的な会員制バー。
美咲の目の前に差し出された、厚みのある封筒を眺めて、ふっと吐息を漏らした。瑞希が必死に工面した、一晩の「指名料」としては破格の金額だ。
「……君が金でしか動かないと言うなら、俺はそれに従うまでだ。美咲くん、今夜は店を通さず、俺の家に来てくれないか」
真面目一徹な瑞希が、震える指先で誘いの言葉を口にする。家事全般ができず、生活感の欠片もない殺風景なマンション。そんな場所に彼を招くのは、自分自身の内側を曝け出すようで酷く勇気がいった。
美咲は封筒をバッグに仕舞うと、しなやかな動作で立ち上がった。
「いいですよ。先輩のプライベートな空間、興味ありますし」
瑞希の自宅。
案の定、リビングには脱ぎ捨てられたジャケットや、中身の入っていないペットボトルが散乱していた。28歳、エリート街道を歩んでいるはずの男の生活能力は、壊滅的だった。
「……酷いですね、これ。先輩、顔はあんなに綺麗なのに」
「……面目ない。仕事以外のことには、どうも疎くてな」
瑞希は耳まで赤くして俯く。そんな彼を、美咲は楽しげに、どこか征服欲を唆られるような目で見つめた。
「掃除は後で俺がしてあげます。……それより、先輩。今日は『寝るだけ』じゃ、お代に見合いませんよ? ちゃんと、サービスさせてください」
美咲が瑞希の胸元に手をかけ、ゆっくりとボタンを外していく。
瑞希の身体が強張った。黒髪の下で、赤眼が不安げに揺れる。
「美咲くん、俺は……女性が、その、母親のことがあって……上手くできる自信が……」
「知ってますよ。だから俺が、解してあげるんです」
美咲はハウレスをソファに押し倒し、その上に跨り。
179cmの男の重みが、瑞希の腿にずっしりと伝わる。美咲の指が、瑞希の熱を帯びた首筋をなぞり、そのまま鎖骨の窪みへと滑り落ちた。
「……っ、美咲、くん……!」
「声、我慢しなくていいですよ。先輩のそういう顔、もっと見たいんです」
美咲の低い、けれど甘い声が鼓膜を震わせる。
恋愛に興味がないと言い切る男の、あまりにも情熱的で、しかしどこか事務的ですらある完璧な愛撫。
瑞希は、恐怖と快楽の狭間で翻弄されながら、自分を壊していくのが「金で買った関係」であることに、歪な安らぎを感じ始めていた。
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